
「現行の年金制度では老後の資金が2000万円不足するという説が流れたりして、老後の生活資金について不安に思っている。老後の生活を支えるのは年金。いまの年金生活者は月額でいくらくらいもらっているのか、また自分はだいたいどれくらいの年金を見込めるのかについて、老後のライフプランの参考にしたいので知りたい」
あなたはいま、将来受け取る年金について不安を抱いていませんか?
年金には厚生年金保険と国民年金があります。働き方や賃金、働いた長さなどによって、それぞれ受給額が変わってくるのはご存知のとおりです。
この記事では、現在年金生活を送っているみなさんが月額でいくらくらいの年金を受け取っているのかをお伝えするとともに、年金額を増やすための方法などについてお伝えしていきます。
目次
1.国民年金の平均的な受給月額は約5万5千円
厚生労働省年金局が発行した「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」(2018年12月発行)によると、国民年金(老齢基礎年金)の平均受給月額は55,615円でした。
40年間保険料を支払った場合、支給額は月額で64,941円が満額となるので、平均受給額は1万円ほど安いことになります。
2.厚生年金の平均的な受給月額
厚生年金の場合、支給が開始される65歳になるまで年金の金額が確定しません。また、その計算方法は複雑であるうえ、今後の収入が変わったり、制度自体が変更されたりする可能性もあるため、将来の年金額を算出するのは困難です。
ただし、すでに厚生年金を受給している人が現在どれぐらいの金額を受け取っているのかはわかりますし、それを目安に将来ご自分が受け取る年金額をおおまかに知ることは可能です。
以下、この章で紹介するのは第1号厚生年金被保険者のデータとなります。
2-1. 全体の平均受給月額は約14万5千円
同じく厚生労働省年金局が発行した「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金を受け取っている約1,589万人の平均受給月額は144,903円となっています。
ただし、これはあくまで平均額であり、会社勤めの期間と給与の金額で受給額が大きく変わることは、みなさんご存知の通りです。
2-2. 男女別の平均受給月額
厚生年金の受給額には男女間で大きな差があります。
平均受給月額を見ると、男性は165,668円で、女性は103,026円と、6万円超の開きがあります。
また、受給月額のピークとなる額で比較してみても、男性の月額のピークは18〜19万円である一方、女性のピークは9〜10万円と、こちらで見ても男女間で受給額に大きな差があることがわかります。
この差が生まれる理由は、現在、厚生年金を受給している世代では、女性が結婚後に離職して専業主婦になった割合が高く、男性と女性では働いていた期間と給与に大きな隔たりがあるためです。結果的に厚生年金の受給金額にも大きな差が出てしまうのです。
3.働き方の違いによる年金受給額例
上記した通り、厚生年金は計算方法が複雑であり、受給者の働き方や勤務条件の変化なども合わせて考えると、事前に年金額を割り出すのは難しく、年金をもらってみるまではその額は正確にわからないのが実情です。
そこで、この章では働き方別に年金受給額の試算を表にしました。自分の働き方に一番近いものを参考に、おおよその受給額を把握しておきましょう。
3-1. 夫(会社員)と妻(会社員)の場合
夫婦年金額 月額30.3万円 | |
夫 16.2万円 20歳~会社員/平均給与(※)45万円 | 妻 14.1万円 20歳~会社員/平均給与35万円 |
厚生年金(定額)65,000円/月 厚生年金(報酬比例)97,453円/月 | 厚生年金(定額)65,000円/月 厚生年金(報酬比例)75,797円/月 |
3-2. 夫(会社員)と妻(会社員10年→専業主婦)の場合
夫婦年金額 月額24.0万円 | |
夫 16.2万円 20歳~会社員/平均給与45万円 | 妻 7.8万円 20歳~会社員/平均給与35万円、30歳~専業主婦 |
厚生年金(定額)65,000円/月 厚生年金(報酬比例)97,453円/月 | 厚生年金(定額)65,000円/月 厚生年金(報酬比例)13,038円/月 |
3-3. 夫(自営業)と妻(会社員)の場合
夫婦年金額 月額20.6万円 | |
夫 6.5万円 20歳~自営業 | 妻 14.1万円 20歳~会社員/平均給与35万円 |
基礎年金 64,942円/月
| 厚生年金(定額)65,000円/月 厚生年金(報酬比例)75,797円/月 |
3-4. 夫(自営業)と妻(会社員10年→専業主婦)の場合
夫婦年金額 月額14.3万円 | |
夫 6.5万円 20歳~自営業 | 妻 7.8万円 20歳~会社員/平均給与25万円、30歳~専業主婦 |
基礎年金 64,942円/月 | 厚生年金(定額)65,000円/月 厚生年金(報酬比例)13,038円/月 |
3-5. 会社員シングルの場合
年金額 月額14.1万円 |
20歳~会社員、平均給与35万円 |
厚生年金(定額)65,000円/月 厚生年金(報酬比例)75,797円/月 |
※平均給与≒働いていた間の年収(賞与込)の平均÷12。20~60歳まで働いた場合は40年間の年収の平均。
参考:
お金の小槌 https://okanenokozuchi.com/couples-pension-benefit
同 https://okanenokozuchi.com/pension-chart#i-6
4.老後の資金を少しでも多く!国民年金の受給額を増やす方法
以上で、年金受給額の目安はだいたいおわかりいただけたかと思います。しかし、「この年金額では心もとない」と感じられる方もいらっしゃることでしょう。そこでこの章では、まず国民年金(老齢基礎年金)の受給額を増やすための方法をお伝えします。
なお、国民年金保険料を納めることが可能な期間は、保険料の納付期限(納付対象月の翌月末)から2年間となっています。この2年間が過ぎてしまうと、時効により保険料を納めることができなくなります。その結果、将来の年金が少なくなったり、年金そのものを受給することができなくなることがありますので十分注意しましょう。
4-1. 追納制度
国民年金(老齢基礎年金)の場合、保険料の免除や納付猶予を受けた期間がある方は、保険料を全額納付した方と比べて年金額が低額になります。
しかし、免除等の承認を受けた期間の保険料については、後から追納することにより、国民年金の年金額を増やすことができます。また、社会保険料控除により所得税・住民税も軽減されますので、免除等を受けたことのある方は、なるべく追納を行うようにしましょう。
追納の手続きは、年金事務所で申し込みを行い、厚生労働大臣の承認を受けたうえで、専用の納付書で支払います(口座振替ならびにクレジット納付は不可)。
注意点は以下の通りです。
追納ができる期間は限られている
追納ができるのは追納が承認された月の前10年以内の免除等期間に限られます(たとえば2008年4月分は2018年4月末まで)。また、承認等を受けた期間のうち、原則古い期間から納付することになります。
保険料額に加算額が上乗せされる場合がある
保険料の免除もしくは納付猶予を受けた期間の翌年度から起算して、3年度目以降に保険料を追納する場合には、承認を受けた当時の保険料額に経過期間に応じた加算額が上乗せされるので、早目の追納をおすすめします。
4-2. 任意加入
国民年金は60歳までは加入が必須となっていますが、60歳までに国民年金の受給資格を満たしていない場合や、40年の納付済期間がないために年金を満額受給できない場合などで年金額の増額を希望するときは、60歳以降でも国民年金に任意加入することができます。ただし、申出のあった月からの加入となり、遡って加入することはできません。
任意加入するためには、以下①~④のすべての条件を満たす必要があります。
①日本国内に住所を有する60歳以上65歳未満の方
②老齢基礎年金の繰上げ支給を受けていない方
③20歳以上60歳未満までの保険料の納付月数が480月(40年)未満の方
④厚生年金保険、共済組合等に加入していない方
※1 年金の受給資格期間を満たしていない65歳以上70歳未満の方も加入できます。
※2 外国に居住する日本人で、20歳以上65歳未満の方も加入できます。
※3 ①の60歳以上65歳未満の方は、60歳の誕生日の前日より任意加入の手続きをすることができます。
任意加入の留意点は以下の通りです。
・保険料の納付方法は原則口座振替です(外国に居住する日本人で20歳以上65歳未満の方を除く)。
・日本国内に居住している方の任意加入の申し込み窓口は、お住まいの市区役所・町村役場の国民年金担当窓口または、最寄りの年金事務所となります。
手続きに必要なのは、
・年金手帳
・預(貯)金通帳
・金融機関への届出印
以上3点となります。
4-3. 付加保険料
国民年金第1号被保険者ならびに任意加入被保険者(65歳以上の方を除く)は、定額保険料に付加保険料400円を上乗せして納めることで、受給する年金額を増やすことができます。申込先は、市区役所及び町村役場の窓口となります。
付加年金額は「200円×付加保険料納付月数」で算出されます。
【例】 20歳から60歳までの40年間、付加保険料を納めた場合の年金額は次のとおりです。 200円×480月(40年)=96,000円 毎月の定額保険料(令和元年度:16,410円)を40年間納めた場合⇒ 780,100円※2019(令和元)年度時点の金額 ※付加年金は定額のため、物価スライド(増額・減額)はありません。 |
納付の注意点は以下の通りです。
①付加保険料の納付は、申し込んだ月分からとなります。
②付加保険料の納期限は、翌月末日(納期限)と定められています。
③納期限を経過した場合でも、期限から2年間は付加保険料を納めることができます。
④付加保険料を納付することを希望しない場合は、付加保険料納付辞退申出書の提出が必要となります。
⑤国民年金基金に加入している方は、付加保険料を納めることはできません。
⑥月末が土曜日、日曜日、休日等にあたる場合および年末の納期限は、翌月最初の金融機関等の営業日となります。
5.繰下げ受給で年金額を増額する
老齢年金は、65歳で請求せずに66歳以降70歳までの間で申し出た時から繰下げて請求できます。繰下げ受給の請求をした時点に応じて、最大で42%年金額が増額されます。
5-1. 国民年金の繰下げ受給
国民年金は65歳から受け取ることができますが、66歳~70歳の希望する時期から受け取りを開始する「繰下げ受給」を選べば、繰下げた月数に連動して年金額が増額されます。増額率は次の式で導き出すことができます。
増額率=(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までに月数)×0.007
つまり、1か月繰下げるごとに0.7%ずつ年金額が増えていくことになります。1年の繰下げで8.4%、最長の5年繰下げ(70歳で受取り開始)で42%も年金額が増やせる計算です。しかも、増額された年金額は一生変わりません。
繰下げ請求時の年齢と増額率(1941〈昭和16〉年4月2日以後に生まれた方)
請求時の年齢 | 増額率 |
66歳0ヵ月~66歳11ヵ月 | 8.4%~16.1% |
67歳0ヵ月~67歳11ヵ月 | 16.8%~24.5% |
68歳0ヵ月~68歳11ヵ月 | 25.2%~32.9% |
69歳0ヵ月~69歳11ヵ月 | 33.6%~41.3% |
70歳0ヵ月~ | 42.0% |
なお、年齢の計算は「年齢計算に関する法律」に基づいて行われ、「60歳に達した日」とは、60歳の誕生日の前日になります。例えば、4月1日生まれの方が60歳に達する(した)日は、誕生日の前日の3月31日となります(厚生年金も同じ)。
5-2. 厚生年金の繰下げ受給
国民年金の年金額は収入にかかわらず一律ですが、厚生年金は収入に応じた保険料を支払うことによって年金額が決まるため、年金額が加算される条件などが変更になる場合を除いて、受け取る年金額を増やすには収入を増やして保険料を増やすほかありません。
ただし、国民年金と同じように、65歳でもらわずに66歳~70歳までの間に受取りを開始する繰下げ受給を申請すれば年金額を増やすことができます。
5-2-1. 厚生年金の繰下げ受給の申し出を行うことができる人
厚生年金(老齢厚生年金)は、国民年金(老齢基礎年金)の支給要件、つまり年金加入期間が10年以上、かつ厚生年金保険の被保険者期間が1か月以上あれば、国民年金に上乗せして65歳から支給されます。ただし、65歳未満の方に支給される厚生年金(「特別支給の老齢厚生年金」のこと。以下囲み参照)については、1年以上の被保険者期間が必要です。
特別支給の老齢厚生年金とは 1985(昭和60)年の法律改正により、厚生年金保険の支給開始年齢が60才から65才に引き上げられました。支給開始年齢を段階的に、スムーズに引き上げるために設けられたのが「特別支給の老齢厚生年金」制度です。 「特別支給の老齢厚生年金」を受け取るためには、以下の要件を満たしている必要があります。 ・男性の場合、1961(昭和36)年4月1日以前に生まれたこと。 ・女性の場合、1966(昭和41)年4月1日以前に生まれたこと。 ・老齢基礎年金の受給資格期間(10年)があること。 ・厚生年金保険等に1年以上加入していたこと。 ・60歳以上であること。 また、「特別支給の老齢厚生年金」には、「報酬比例部分」と「定額部分」の2つがあり、生年月日と性別により、支給開始年齢が変わります。 |
5-2-2. 繰下げ加算額
繰下げ加算額は、原則、65歳時点の老齢厚生年金額を基準として、支給の繰下げの申し出をした時期に応じて、計算されます。
繰下げ加算額=(繰下げ対象額+経過的加算額)×増額率
増額率は、国民年金と同じで、繰下げ月数×0.7%(0.007)、最大42%(0.42)です。増額率の詳細は「5-1. 国民年金の繰下げ受給」の表「繰下げ請求時の年齢と増額率」をご覧ください。
5-2-3. 障害厚生年金や遺族厚生年金などが繰下げ支給に与える影響
1942(昭和17)年4月2日以後生まれの方は、原則、66歳に達した日以後に、支給の繰下げの申し出ができます(※)。ただし、65歳に達した日から66歳の誕生日の前日までの間に、障害厚生年金、遺族厚生年金などの年金を受ける権利を有したことがあるときは、申し出はできません。
年金の種類
種類 | 支給目的 | 国民年金 | 厚生年金保険 |
老齢 | 年をとって仕事をリタイアした後に支給 | 老齢基礎年金 | 老齢厚生年金
|
障害 | 病気や事故で障害を負ったために働いたり日常生活を送るのに困難な人に支給 | 障害基礎年金 | 障害厚生年金
|
遺族 | 一家の働き手や年金を受け取っている人が亡くなった時に遺族に対して支給 | 遺族基礎年金 | 遺族厚生年金
|
また、66歳に達した日以後に、障害厚生年金や遺族厚生年金などを受ける権利が発生した場合は、支給の繰下げの申し出はできますが、この場合、他の年金が発生した月を基準として増額率が定められ、繰下げ加算額が計算されます。
増額された老齢厚生年金は、実際に支給の繰下げの申し出をした翌月から支給されることになりますので、ご留意ください。
※1942(昭和17)年4月1日以前生まれの方で、2007(平成19)年4月1日以後に老齢厚生年金を受けることができることとなった方も支給の繰下げの申し出を行うことができます。
厚生年金繰下げ請求に関する注意点についての詳細は、「日本年金機構」サイトをご参照ください。
6.まとめ
以上、現在年金生活を送っている方がどれくらいの年金を受け取っているのか、また受給額の増やし方などについてお伝えしてきました。
最後におさらいすると、
国民年金の平均的な受給月額は約5万5千円
厚生年金の平均的な受給月額は約14万5千円
働き方の違いによる年金受給額の例では、
夫(会社員)と妻(会社員)の場合:30.3万円
夫(会社員)と妻(会社員10年→専業主婦)の場合:24.0万円
夫(自営業)と妻(会社員)の場合:20.6万円
夫(自営業)と妻(会社員10年→専業主婦)の場合:14.3万円
会社員シングルの場合:14.1万円
となっていましたね。
これらの数字を参考にしつつ、老後の生活を少しでも安心できるものにするため、ご紹介した増額方法でできることがありましたら、ぜひ早めに講じてみてください。
この記事が、来るべき年金生活のプランを組み立てるための参考になれば幸いです。
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