
定年が見えてくる40~50代は、老後のためにいくらの貯金があればいいのかが気になる年代でもあります。しかし、気心の知れた間柄であっても、お金の話はタブーな面もありますので、同年代がどのくらいの老後貯金をし、今現在、どのくらいの貯金額があるのかがわかりません。そのため、余計に「自分はこれでいいのか?足りてるのか?」と不安になることも多いでしょう。
そこで今回は、老後の貯金に関して以下のようにまとめました。
- 40代・50代の全国平均貯金額
- 定年退職までに準備しておくべき理想の老後貯金額
- 今から老後貯金を増やすための方法3STEP
最後までお読みになれば、今準備している老後の貯金額が全国平均の中でどの程度の位置なのかがわかり、今後の目標額の設定に役立ちます。また、自分にとって理想となる貯金額を知り、そのために何をすべきかもわかります。
目次
1.40代・50代の全国平均貯金額
本章では、老後の貯金額が気になりだす、40代と50代の貯金額の全国平均をまとめています。この預金額は、老後のために運用(定期などの預貯金 保険 有価証券 その他の金融商品 )するためのお金で、日常生活で使うために口座から出し入れするお金は含まれていません。
1-1.夫婦世帯
金融広報中央委員がまとめた世論調査のデータをもとに、40・50代の夫婦世帯の預金額をまとめたものです。
1-1-1.40代の夫婦世帯
40代夫婦が、老後のために備えをしている貯金額別に全国平均を%表示にしました。40代の平均貯金額は1,181万円、中央値*は745万円となっています。*中央値とは、金額順に並べたときにちょうど中央に来る数字のこと。
40代の夫婦世帯 全国平均貯金額 | |||||||||||||
貯金 なし | 100万円以下 | 100~200 万円 | 200~300 万円 | 300~400 万円 | 400~500 万円 | 500~700 万円 | 700~1,000 万円 | 1,000~1,500 万円 | 1,500~2,000 万円 | 2,000~3,000 万円 | 3,000 万円~ | 平均 貯金額 | 中央値 |
25.2% | 5.9% | 5.2% | 4.8% | 4.2% | 3.8% | 5.6% | 5.8% | 11.9% | 9.0% | 5.9% | 10.9% | 1181.3 | 745.6 |
【参照:家計の金融行動に関する世論調査をもとに、編集部でまとめ】
貯金の内訳は、預貯金、生命保険、株式、個人年金保険、投資信託などが含まれています。40代全体の1/4は貯金をしておらず、残り3/4は日常生活にかかるお金とは別に、何らかの運用をしながら老後のための蓄えをしていることがわかります。
平均貯金額1,181万円、中央値745万円ですので、40代で1,000万円前後の預貯金があるのは余裕があるように思えますが、まだ子育ての途中である40代は、上記の貯金から
- 子供の学資
- 結婚資金
- マイホームの完済
- 親の介護資金
などの費用を捻出する可能性が高く、さらには、日本経済の状況によっては、保有している金融商品がマイナスになることもあります。
そのため、現時点で蓄えられている貯金を維持したまま、リタイアメントをするまでの期間で、老後資金を増やせるかが課題となります。
1-1-2.50代の夫婦世帯
50代夫婦が、老後のために備えをしている貯金額別に割合を%表示にしました。50代の貯金額の平均は1,774万円、中央値は約1,005万円となっており、40代からの10年間で老後資金を積極的に増やしていることがわかります。
50代の夫婦世帯の平均貯金額 | |||||||||||||
貯金 なし | 100万円以下 | 100~200 万円 | 200~300 万円 | 300~400 万円 | 400~500 万円 | 500~700 万円 | 700~1,000 万円 | 1,000~1,500 万円 | 1,500~2,000 万円 | 2,000~3,000 万円 | 3,000 万円~ | 平均 貯金額 | 中央値 |
25.0% | 5.1% | 4.2% | 4.1% | 1.9% | 2.7% | 6.9% | 8.5% | 9.1% | 5.1% | 9.5% | 15.2% | 1774.4 | 1004.9 |
【参照:家計の金融行動に関する世論調査をもとに、編集部でまとめ】
貯金の内訳は40代同様、預貯金、生命保険、株式、個人年金保険、投資信託などが含まれています。50代全体の1/4は貯金をしていませんが、40代と比較すると2,000~3,000万円と3,000万円以上の貯金額帯が増えていることから、老後貯金をコツコツと増やしていることがわかります。
また50代は子供の独立などで、扶養家族が減ることが多いため、老後の貯金に回せる割合が増えていく時期でもあります。
数字だけで見ると、50代では、定年までに老後資金準備が完了するのは時間の問題のようにも見えますが、この年代は
- リストラ
- 再雇用による収入減
- 離婚、死別
- 家のリフォーム
- 親の介護
などで、引き続きまとまった金額が出ていく可能性が大いに残されています。また、日本経済の状況によっては、今日まで運用してきた金融商品が目減りする可能性も多いにあるため、リタイアメントまでの残り少ない期間で、預金額を減らさずに、引き続き貯金が増えるようにしていく必要があります。
1-2.単身世帯
金融広報中央委員がまとめた世論調査のデータをもとに、40・50代の単身世帯の預金額をまとめたものです。
1-2-1.40代の単身世帯
40代の単身世帯が、老後のために備えをしている貯金額別に全国平均を%表示しています。平均貯金額は1,298万円、中央値*は約898万円となっています。
*中央値とは、金額順に並べたときにちょうど中央に来る数字のこと。
40代単身世帯の平均貯金額 | |||||||||||||
貯金 なし | 100万円以下 | 100~200 万円 | 200~300 万円 | 300~400 万円 | 400~500 万円 | 500~700 万円 | 700~1,000 万円 | 1,000~1,500 万円 | 1,500~2,000 万円 | 2,000~3,000 万円 | 3,000 万円~ | 平均 貯金額 | 中央値 |
27.5% | 7.2% | 2.6% | 2.5% | 2.0% | 1.9% | 10.8% | 3.3% | 11.3% | 5.7% | 4.1% | 15.6% | 1,298.1 | 897.9 |
貯金の内訳は夫婦世帯同様、預貯金、生命保険、株式、個人年金保険、投資信託などが含まれています。40代単身世帯の約1/3近くが老後のための貯金をしておらず、2/3は日常生活にかかるお金とは別に、何らかの運用をしながら老後のための蓄えをしていることがわかります。
単身世帯は、収入の中から預金割合を増やせる自由度が高いため、平均貯金額・中央値ともに、同じ40代夫婦世帯よりも多いという特徴があります。
中央値898万円であれば、単身世帯の場合は、このまま大きなライフプランの変更がなければ、老後資金を増やしやすい状況ではあります。
しかし、この年代は、
- リストラ
- 転職による収入減
- 病気ケガ
- 結婚
- 親の介護
など以外にも、運用している金融商品の目減りなどで、貯金額が減る可能性があります。
1-2-2.50代の単身世帯夫
50代の単身世帯が、老後のために備えをしている貯金額別に全国平均を%表示しています。平均貯金額は1,973万円、中央値*は約1,088万円となっています。*中央値とは、金額順に並べたときにちょうど中央に来る数字のこと。
50代の単身世帯の平均貯金額 | |||||||||||||
貯金 なし | 100万円以下 | 100~200 万円 | 200~300 万円 | 300~400 万円 | 400~500 万円 | 500~700 万円 | 700~1,000 万円 | 1,000~1,500 万円 | 1,500~2,000 万円 | 2,000~3,000 万円 | 3,000 万円~ | 平均 貯金額 | 中央値 |
35% | 7% | 5% | 2% | 4% | 2% | 4% | 3% | 4% | 6% | 8% | 19% | 1,973 | 1,088 |
貯金の内訳には、預貯金、生命保険、株式、個人年金保険、投資信託などが含まれています。50代単身世帯の約3割強は老後の蓄えをしておらず、全世帯と年代の中では、50代単身世帯が最も貯金がない割合が高いのが特徴です。
残りの6割弱の50代単身世帯は、日常生活にかかるお金とは別に、何らかの運用をしながら老後のための蓄えをしています。
このまま定年まで貯金を継続していけば必要な老後貯金を達成できそうですが、全世帯と世代の中では、目立って「中央値40代898万円→50代1,088万円」と伸び率が悪いため、50代単身世帯は、他の世帯と比較すると貯金がしづらい環境にあるか、それ以上の貯金を必要としない可能性が類推されます。
しかし、50代から退職までの期間には、
- 給与の頭打ち
- 早期リストラ
- 転職による収入減
- 病気ケガ
- 親の介護
などで、老後貯金からマイナスになる可能性があります。また、今後の日本経済の状況によっては、今日まで運用してきた金融商品の急激な目減りなどで、金融資産が減る可能性があります。
単身世帯は夫婦世帯と比較すると、給与の中から貯金に配分する割合を増やしやすい環境にありますので、リタイアメントまでの期間、マイナスを補完できる方法を増やしておく必要があります。
2.「老後資金2,000万円」問題の解明
本章では「老後資金2,000万円問題」についてまとめています。
2019年6月に発表された金融審議会市場ワーキング・グループが発表した「高齢社会における資産形成・管理」の報告によれば、老後の生活費を公的年金だけに頼った場合は、毎月5万円の赤字が発生し、定年後20年生きると約1,300万円、30年で約2,000万円の赤字になるため、長生きをすればするほど、多くの世帯で老後破産が起きる可能性があるというものでした。
報道では「2,000万円」の数字にスポットライトがあったため、
「今から2,000万円作るのは無理」
「老後は暮らしていけないかもしれない」
と不安になった方も多いかと思います。
2-1.老後に「2,000万円」足りないの数字的根拠
この老後に足りない「2,000万円」に対する、報告書の数字的根拠は以下の3点です。
- 定年後の定義:夫65歳以上、妻60歳以上(男性は定年後16年、女性は27年が寿命)
- 平均寿命:男81歳前後、女87歳前後 【参照:厚生労働省「完全生命表」】
- 平均的年金収支: 収入約21万円・支出26万円・▲5万円
上記の数字だけに注目すると、確かに、定年後に約20~30年ある年金生活で、毎月5万円の赤字を発生させれば、老後に2000万円近い赤字になることは避けられません。だだし、これは公的年金だけに頼った老後設計のまま、老後生活が始まるまでに、退職金などを含めたまとまった資金が用意できなければ、という前提の数字です。
2-2.「2,000万円」問題は退職金か貯金で解決できる
2,000万円問題は退職金なども含めたまとまった金額が、老後生活の開始時までに用意できていれば解決できます。では、具体的にいくら準備できればいいのかを検証してみましょう。
以下の図は、1章で紹介した全国平均額を、世帯別に図にしたものです。中央値が夫婦で2,000万円越え・単身で1,000万円越えですので、単純計算で1人頭1,000万円前後を老後のために貯めていることになります。
「2,000万円問題」のベースは夫婦世帯の話ですので、この老後問題は、実際には「1人頭1,000万円問題」ということになります。
上図の老後資金の準備額を見る限り、多くの世帯では定年前には中央値に近いか、超える金額が準備できていますので、これらの老後貯金額と、退職金などとの合計金額が、1人頭1,000万円を超えていれば、報告でいう毎月マイナス5万円分の赤字は補填できることがわかります。
また、万が一、60代近くに退職金などの大きなお金が入る予定がゼロであったとしても、1人頭1,000万円前後の金額を、ご自身が老後生活を始めるタイミングまでに
- 再雇用で可能な限り働く
- 節約をして貯蓄額を増やす
などの努力をして準備できれば、公的年金と合わせてやりくりしながら、身の丈に合った暮らしが出来ることがわかります。
ただし、「2,000万円問題」のきっかけになった報告書によれば、今後の日本の状況は
- 今までの老後よりも長寿になる可能性がある
- 将来、公的年金支給額は減る可能性が高い
- 今までよりも、退職金は減少する傾向にある
という観点から、これからセカンドライフを控えている40代・50代は、仮に現時点で老後資金の目標額に近い蓄えがあったとしても、
従来のような、老後の生活費を公的年金だけに頼るライフプランだけではなく、老後に備えた自衛策として年金額を補完できる方法を複数用意しておく必要はあるでしょう。具体的な方法に関しては、4章で解説があります。
【参照:総務省統計局 家計調査年報 家計収支編】
【参照:金融審議会市場ワーキング・グループ「高齢社会における資産形成・管理」】
3.定年退職までに準備しておくべき理想の老後貯金額
本章では、定年退職までに準備しておく理想の老後貯金額が「自分の場合はいくらなのか?」の視点でシミュレーションしてみましょう。
退職後の人生で必要な費用総額の計算方法は以下の通りですので、式の中の各項目A・Bの内容をかんたんに解説していきます。※前提として、定年後に公的年金以外の定期収入がないものとします。
3-1.A 退職後の生活費総額-年金額
生活費総額は、政府統計データをもとに、60歳以降の人生でかかる生活費を、よくある項目ごとにまとめました。生活費は大きく分けると、①必要最低限の生活費と、②ゆとり生活費に分かれます。
①必要最低限の生活費
必要最低限の生活とは、暮らすために必要とされる生活必需のインフラや物品が過不足なくあり、問題なく日々の生活を送れるレベルのことです。そのため多くの人が想像しているような「ギリギリ」の生活とは違い、「贅沢はできないけど、普通に暮らせる」レベルのことです。
②ゆとり生活費
ゆとり生活費とは、①の普通の暮らしの中に、楽しみや娯楽を増やす暮らしぶりです。例えば、老後のライフスタイルで
- 趣味や習い事をしたい
- 家族や友人と旅行やレジャーを楽しみたい
- 健康管理を積極的にしたい
- 家の中をリフォームして住みやすくしたい
- たまにレストランなどでグルメを楽しみたい
など、「楽しみ」「快適さ」の要素をプラスしていきます。確かに、これらの要素は、生活そのものは無くても支障はありませんが、あれば精神的な喜びや余裕につながる部分です
世間一般でいわれる「理想の老後生活費」とは、①と②を合わせた金額のことです。以下の表は、総務省が毎年発表している統計をもとに、60歳以後から老後生活が始まった場合の、世帯ごとの月額の生活費用一覧です。
①必要最低限の生活費 | 夫婦世帯 | 単身世帯 | ②ゆとり生活費 | 夫婦世帯 | 単身世帯 |
食料費 | ¥74,141 | ¥41,373 | 趣味のお金 | ¥21,494 | ¥15,867 |
水道・光熱費 | ¥22,294 | ¥11,687 | リフォーム費 | ¥12,074 | ¥3,780 |
衣料費 | ¥6,688 | ¥4,910 | 健康のための医療費 | ¥1,591 | ¥1,003 |
住居費 | ¥15,956 | ¥20,950 | 冠婚葬祭も含めた交際費 | ¥17,860 | ¥8,640 |
保険医療費 | ¥15,790 | ¥7,129 | ②合計 | ¥53,019 | ¥29,290 |
交通・通信費 | ¥33,236 | ¥18,310 | ①+②夫婦世帯の理想の老後生活費 月額¥221,124 | ||
① 合計 | ¥168,105 | ¥104,359 | ①+②単身世帯の理想の老後生活費 月額¥133,649 |
【参照:統計局 家計調査】
①の必要最低限な生活費のみの簡素な暮らしに、②のゆとりある生活の要素を足すと、月3~5万円くらいの支出となります。
仮に、60歳定年で90歳までゆとりのある人生を送る場合には、生活費とは別に900~1,500万円ほどを準備しておく必要があります。ただし、ゆとり生活費は①の必要最低限の生活費とは違い、毎月必ず発生するタイプの費用ではありませんので、実際には、その時の状況に応じて増減します。
また、何をもってゆとりある生活、ゆとりのある老後人生と思うのかは、個々の考え方で変わってきますので、上記表で紹介した②ゆとり生活では不十分だと感じる方もいれば、多すぎるぐらいだと判断する方もいるでしょう。
これらの「自分にとってのゆとりを含んだ生活費総額」を算出してから、公的年金の支給額を引いたものが、老後の生活で毎月必要に金額となります。
今現在、自分の老後の生活基準がわからない方は、以下の全国平均のゆとり生活総額から、ご自分の年金額を差し引いて試算してみて下さい。公的年金を生涯どのくらいもらえるかは、寿命によって違いますので、計算するときは1年または月額ベースで計算しておくほうが、より現実に近い数字になります。
全国平均のゆとり生活総額 | 月額 | 年額 |
ア:夫婦世帯の理想の老後生活費 | ¥221,124 | ¥2,653,488 |
イ:単身世帯の理想の老後生活費 | ¥133,649 | ¥1,603,788 |
ウ:ご自身の公的年金額 | ||
エ:(アまたはイ)-ウ=必要な月額 | ||
オ:エ×ご自分の寿命=貯金からの持ち出し費用 |
表の「オ」の部分が計算式のAに相当します。
A(退職後の生活費総額-年金総額)-B(退職後に入るお金)=退職までに用意しておくべき理想の金額
公的年金支給額の確認方法については、
がありますが、仕事と子育てに忙しい40~50代は、ねんきんネットに登録をすれば、いつでもスマホから確認ができますので、とても便利です。
3-2.B 退職後に入るお金の確認
次は、計算式の中のB、退職後に入るお金の総額を確認します。
A(退職後の生活費総額-年金総額)-B(退職後に入るお金)=退職までに用意しておくべき理想の金額
3-2-1.退職後に入るお金の確認
会社員の場合、退職後に入るお金には、例えば
・退職金
退職金は、会社を退職するときにまとまった額のお金を受け取る制度ですが、使途が自由です。多く の方は、老後資金として活用します。
・確定拠出金
老後資金の形成を目的とした制度で、60歳以降に一時金または年金として受給できます。
などがあります。これ以外にも、勤め先(転勤前の企業も含む)で積み立てていたものがあればリストしておきましょう。
制度や金額がわからない場合は、各企業の労務課(転職した場合は、以前の会社の人事労務)で確認できます。ただし、退職金制度は民間企業の必須制度ではないため、企業によっては制度がないところもあります。
厚生労働省(中央労働委員会)の調査によれば、全国の大企業~中小企業までを合わせた平均的な退職金の金額は
- 大卒 22,895,000円
- 高卒 18,589,000円
【参照:令和元年賃金事情等総合調査(確報)】
となっていますので、今回の試算では、退職金は2千万円とします。
3-3. 理想の老後貯金額の試算
会社員が退職後に再雇用をしないで年金生活に入ることを前提として、理想の老後貯金額の試算をしてみましょう。会社員の多くは厚生年金に加入していますので、年金(老齢年金支給額)を厚生年金保険年齢別老齢年金受給権者平均年金月額から引用します。
会社員の厚生年金受給額の最も低い金額が月額約8万円(年96万円)ですので、この数字で試算します。
A(退職後の生活費総額-年金総額)-B(退職後に入るお金)=退職までに用意しておくべき理想の金額
余命ごとの生活費総額から、退職金2千万円を引いた金額が、理想の老後預金額になります。計算式に当てはめて計算したものを一覧表にしました。今回の数値では、単身は生涯、夫婦は定年後から70歳代までは年金支給額だけで暮らしていけることがわかりました。
しかし、夫婦で80歳以上の長生きをする場合には、以下の表で赤字に記された金額が足りないことになりますので、この数字が、退職までに用意しておくべき、理想の老後貯金金額ということになります。
【退職金2千万円・公的年金年間96万円で試算した、世帯別理想の老後貯金額】
年間生活費 | 年間年金額 | A | 退職までに用意しておくべき理想の老後貯金額 | |||
必要最低限の生活費 | 70歳寿命 | 80歳寿命 | 90歳寿命 | |||
夫婦世帯 | ¥2,017,260 | ¥960,000 | ¥1,057,260 | ¥10,572,600 | ¥21,145,200 | ¥31,717,800 |
Bの退職金2千万円を差し引いた金額 | ¥0 | ¥0 | ¥1,145,200 | ¥11,717,800 | ||
単身世帯 | ¥1,252,308 | ¥960,000 | ¥0 | ¥0 | ¥0 | ¥0 |
ゆとりを含んだ理想の生活費 | A | 70歳寿命 | 80歳寿命 | 90歳寿命 | ||
夫婦世帯 | ¥2,653,488 | ¥960,000 | ¥1,693,488 | ¥16,934,880 | ¥33,869,760 | ¥50,804,640 |
Bの退職金2千万円を差し引いた金額 | ¥0 | ¥0 | ¥13,869,760 | ¥30,804,640 | ||
単身世帯 | ¥1,603,788 | ¥960,000 | ¥0 | ¥0 | ¥0 | ¥0 |
これらの試算は、あくまで平均データをもとにした数値ですので、退職金額・年金支給額によって、結果が変わります。特に、自営業の方の公的年金支給額は満額でも6.5万円ですので、会社員よりも支給額が少ないため、年金額を補填できる方法をほかに考えておく必要があります。
また、年金額は充分あっても、現役時代と同じ生活レベルで暮らしたい方、働いていた時には行けなかった旅行や趣味などを、動けるうちに思いっきり楽しみたいという方は、上記の試算では全く老後資金が足りなくなるため、より多くの貯金を準備しておく必要があります。
大切なのは、他人のデータではなく、自分の現状をしっかりと数字で把握し、残された老後までの時間で、出来る限り貯金額を増やしていくことです。次章では、具体的な資金の増やし方を解説します。
4.今から老後貯金を増やすための方法3STEP
定年までの残された時間で、今から老後貯金を増やすための方法を3つのステップにまとめました。
4-1.STEP1 自分の総資産額を確認しておく
今現在の自分(世帯)で老後に使える可能性のある資産がどのくらいあるかを確認します。
4-1-1.金融資産
今お持ちの金融商品のリストを出し、総額を出します。夫婦世帯の場合は、夫婦それぞれの金融商品をリストにします。
金融商品とは、生活費とは直接関係のない預貯金・定期預金・保険商品・外貨預金・金貨・ビットコイン・株式などを指します。それぞれ、リスト後にやっておくことがありますので参考にしてください。
・預貯金 定期預金
現金を預けているタイプの資産です。預貯金で当面使う予定のないものは、短期の定期に移し替えるか、少しでも利率の高い金融商品に乗り換えて運用していきます。運用方法は、本章3項で解説しています。
・保険商品
保険は金融商品ですので、換金性があります。特に、若いときに掛けた保険などは、利率の良い時代のものであれば、解約すると解約返戻金などでまとまった金額が戻ってくることがあります。
また、今の生活状況にあっていない保険商品の見直しをし、必要がないものは解約をします。例えば、子供が大きくなったのに続けている子供保険・学資保険や、同じタイプの生命保険や入院保険を複数持っている場合は、必要なものだけに絞ります。
掛け捨てタイプであればその分の金額が貯金に回せますし、積み立てタイプのものであれば、契約内容によっては、掛金の一部が戻ってきます。
・外貨預金 金貨
外貨または金で資産を持っていることがあります。明確な運用益を狙って外貨や金を保有しているのであれば問題ありませんが、窓口などですすめられて何となく購入した場合には、利益が出ていないのであれば、金融機関に手数料を取られるばかりですので、解約して他の運用方法に変更してもよいでしょう。
・ビットコイン
ビットコインは現時点でも活発な動きをしている通貨もありますので、持っている方は、元本を減らさない範囲で運用を続けます。
購入した通貨によっては大きな運用益が出ることもあります。ただし、預金のように預けっぱなしで増えるタイプのものではありませんので、ビットコインの運用に積極的に関われない場合は、ある程度の利益が確定した時点で手仕舞いし、確実な老後資金となる金融商品に切り替えておくほうが、資産を失わない確立が高まります。
・株式
株式に関しては、どのような目的で購入したのかで対処が違います。配当益が目的の場合は、配当がない期間が一定期間続いたら、一旦、売却をして他の銘柄に買い替えるか、現金として保有しておきます。
短期売買が目的の場合は、ご自身が運用できる範囲で元本を減らさない程度あれば、続けても問題はありません。ただし、プラスマイナスゼロなのであれば、より確実に老後貯金を殖やせる金融商品に切り替えたほうが建設的かもしれません。
4-1-2.負債
現時点の借金のことです。老後貯金を作ることが目的ですので、基本的に今ある負債は、老後に持ち込まない前提で考えましょう。
老後生活に大きく影を落とす可能性のある負債は、住宅ローンの残債です。退職金の一部を充当する予定の場合でも、本記事で解説した通り、退職金は目減りしていく傾向にある上に、老後貯金に回せるかなりまとまった金額ですので、なるべく老後のために確保しておくことをおすすめします。
住宅ローン残債を確認し、定期収入のある現役時代に完済を目指しましょう。それ以外には、車のローン、学資ローン、リボ払いの残債があります。住宅ローンほどの金額ではありませんが、現役中に返済が終わるようにしておきます。
4-1-3.不動産
自宅以外に、別荘・投資物件・土地などがあれば、リストしておきます。不動産は活用すると老後生活の強いサポートになり得ますので、不動産活用をする場合は、金融機関から融資のおりやすい現役のうちに始めておきましょう。不動産活用には例えば
- 自宅を改造して一部を賃貸にする
- 自宅を売却し、複数の小型マンションを持ち、賃貸に出す
- アパートを建築しする
- 土地をコインパーキングやコンビニなどに貸し、賃料収入を得る
など、さまざまな方法があります。お持ちの土地のエリアと条件によって活用方法が違いますので、気になる方は一度、ハウスメーカーや大手の不動産会社のサイトから資料を取り寄せ、相談してみましょう。
売却する場合には、税額を払うタイミングなどを考慮します。特に、会社員は退職金があるとその年の課税額がはね上がります。同じタイミングで不動産売却をして譲渡益が入ると、30~50%の課税になることもありますので、売却を検討している場合は注意が必要です。
4-1-4.相続
ご自身の親世代からの相続と、ご自身が子世代にする相続とがあります。
・親世代からの相続
親からの生前贈与・死亡相続などで、現金や資産が増えるケースがあります。基本的には親世代の所有財産と意志の問題ですので、子世代がコントロールしにくい部分ではありますが、親世代から引き継げるものがあるかは、事前に確認しておいても良いでしょう。
・子世代への相続
ご自身が自分の子世代に生前贈与・死亡相続をするケースです。例えば、
- 今住んでいる自宅はこのまま住み続けるので、子供に引き継いでもらいたい。
- 金融資産は老後に充当したいので、自分たちで使いたい。
- 自宅も売却してマンションに引っ越す予定なので、売却益の中から、生前贈与したい。
などがあげられます。40~50代では、子世代はまだ学生である可能性もありますが、自分たちがある程度の相続の割り振りを決めておけば、老後資金に何が使えるのかがハッキリと見えてきます。
4-2.STEP2 生活をコンパクトにして老後貯金を作る
老後は無収入となるため、散財をしても「また稼げばいいや!」という図式が成立しなくなります。そのため、老後生活に合わせたコンパクトな暮らしに、今から少しずつ修正していきます。
今回は、今からすぐに出来る見直しポイント7つをピックアップしました。
4-2-1.見直しポイント1 保険の見直し
夫婦2人だけ、単身だけの生活に大きな保険は必要ありません。まずは、万が一のときの子供の教育費として備えていた分の保障額が減らせます。
しかしファミリー層の40~50代に働き盛り世代が突然いなくなると家計に大きなダメージがありますので、死亡保障は老後生活が始まるまではあまり大きく減らさないようにしておきましょう。ただし、住宅ローンの返済中の場合は、団体信用生命保険に入っていれば、万が一の場合には住宅ローンの残金が団体信用生命保険から相殺されますので、一般の死亡保障も減らすことができます。
家族構成から必要とされる保障額以上の金額になるものは、プラン変更すれば、差額は貯金に回せます。単身世帯の場合は、自分が病気になった時にそばに看病をしてくれる人がいませんので、医療保険・介護保険などのプランを見直しておく必要はあります。
プラン内容の見直しは、保険契約時の担当会社に相談するか、ネットでの簡易見積もりなどが使えます。【参照:ライフネット生命 かんたん見積もり】
4-2-2.見直しポイント2 車などの費用見直し
子供が小さな時には家族全員や祖父母までが乗れるワゴンタイプの車も必要でしたが、老後はそこまで大きな車は必要なくなります。単身・夫婦世帯とも、車が足替わりになるようなエリアではない場合は、車の所有自体を見直してみましょう。
車を所有すると、車両保険・自動車税・ガソリン代・駐車場代・車検代などの維持費が発生します。例えば、この普通自動車を軽自動車に変えるだけでも維持費の大幅なコスト削減が可能です。
また、最近ではカーシェアリングという、必要な時間だけ車をレンタルするという方法もあるため、ご自分で車を所有しなくても良い環境が整っています。頻繁に車を使うわけではないのであれば、わざわざカーローンを組んで返済しながら維持費を捻出するよりも、出費が減ります。
また、老後の終の棲家を新しくする場合には、駅近いエリアに引っ越せば、車自体が必要なくなります。今後の生活での必要性と車にかかる費用の比較をし、不要だと判断した場合は売却をします。【参照:三井のリパーク カレコカーシェアリング】
4-2-3.見直しポイント3 食費・水道光熱費の見直し
生活費や食費の見直しをします。以下のグラフは、2章に出てきた生活費総額の中の必要最低限の生活費の部分です。これで見ると、生活費の中で食費は世帯を問わず、老後生活で大きな割合を占めていることがわかります。
食費や水道光熱費は、毎日の暮らしで消費していくタイプのものですので、意識して節約をすることで、出費を抑えることは可能ですただし、20~30年も続く老後生活であまりにケチケチしていると苦しくなりますので、基本的には「不必要なことをしない」をテーマにします。
◆食費の場合◆
買い物の前に冷蔵庫に何があるかを確認し、同じ食品が重ならないようにします。特に、冷蔵庫がいつもパンパンのご家庭は注意しましょう。こうすることで賞味期限が切れた食品を廃棄するなどのフードロスと、食品がいたんでいることによる食中毒などを避けることができます。
夫婦世帯は、今までは子供の成長のために品数多く出していたおかず類も、大人二人ではそこまでの量は必要ありませんので、献立の見直しをしましょう。全世帯、食事内容をシンプルにすることで、買い物量そのものを減らすことができます。
◆水道光熱費の場合◆
こちらは主に光熱費の部分で不必要なことをしないことが、節約につながります。単身世帯は水道光熱費に大きな割合を占めていないので、今のままでも問題ありません。
・電気
まずは使っていない部屋の電気はこまめに消すことです。できれば、LED電球に変えましょう。一個の値段は高いのですが、電球が切れないので長期間買い替えずに済むうえに、消費電力は蛍光灯の1/2です。
全ての部屋をLEDにしなくても、常時使うリビング・キッチン・バストイレ・寝室などを替えるだけで、節電になります。
・ガス
基本的にフライパンや鍋の大きさからはみ出す火は調理には必要ありませんので、中火を使うようにしましょう。また、煮込みなどの場合は、保温力の高い鍋を使って調理をすれば、調理時間が短く済みます。
同じレシピで調理をする場合、ガスよりも電気のほうが代金が安くなりますので、ガスコンロをIHクッキングヒーターに変えるか、思い切ってオール電化に替えることも検討してみましょう。ガスを使わない=火がないので、老後に火事の危険を避けることもできます。
・水道
水の出しっぱなしで洗い物をしない、お風呂でシャワー出しっぱなしで身体を洗わないなど、こまめなことで節水できます。
・冷蔵庫
設定温度が最高値になっているご家庭が多いのですが、夏でも中で十分です。常時使う電力を小さくすることで、節電になります。
4-2-4.見直しポイント4 スマホ代など通信費見直し
スマホの代金は基本料金・パケット定額・オプションの3つに分かれていますので、
- 基本通話料が余っていたら、基本料金を下げる
- パケットの通信費を上限まで使っていないなら、ひとつ下のプランにする
- 不要なオプションを解約する
などで毎月のスマホ代金は下げられます。これらは、ご自分のスマホマイページか、契約している携帯会社の代理店窓口で確認・プラン変更の相談ができます。
SIMカード(通信をするために必要なカード)にロックがかかっていない携帯やスマホをSIMフリーと言いますが、低価格のモバイル通信SIMを使うと、通信料そのものも安くできます。契約をしていえるキャリア(ドコモ・au・ソフトバンク)で、自分のスマホがSIMフリーに変更できるかを確認してください。
また、通信費を減らすという意味で、ほとんど使わない家の電話(固定電話)を解約してしまうことも検討してみましょう。固定電話代金がかからなくなります。【参照:docomo au Softbank】
4-2-5.見直しポイント5 不要な健康グッズ・健康食品を見直す
健康のためと飲んでいたさまざまなサプリメントや健康食品を見直します。効果を体感しているものまで止める必要はありませんが、「効いてるかどうかわからない」ものは中止をしましょう。
ゆとり生活のところで出てきた、健康のための医療は、月額1,500円ほどですので、この金額に見合う範囲に収まるように努力をしましょう。また、中には、先輩後輩・友人知人のおつきあいで定期的に買っていたものもあるかと思いますが、適当なところで解約しましょう。
4-2-6.見直しポイント6 お付き合いを見直す
今後の、さまざまなお付き合いを見直します。たとえそれが冠婚葬祭であっても、出るかを迷ったら、本当に出席する必要があるのかを考えてから答えを出しましょう。
会社員時代はさまざまな人間関係上、無視できないようなお付き合いも多々ありましたが、老後生活では、義理で頑張って出るような式・飲み会・集まりなどは、欠席してもお互い様ということで、大きな支障にはなりません。
仮に毎月1回、何らかの冠婚葬祭があったと仮定した場合は、1か月に1万円、1年で12万円のお付き合い費用が削減できます。40~50代からは、ご自身が老後も末永く付き合っていきたいと思える大切な人達との時間のために、少しずつ、義理やお付き合いと上手に距離を取っていきましょう。
4-2-7.見直しポイント7 今の家の広さが必要かを見直す
今住んでいる家の広さが、老後も必要かを見直します。特に、定年が視野に入る40代後半~50代は、子供世代が独立して家を離れていき、使わない部屋が出てきます。
夫婦とも元気なうちは、空いている部屋をそれぞれの寝室として使う、書斎や趣味の部屋にするなどの活用も出来ますが、老後生活が長くなってくると、だんだんと二階への上り下りや、広い家の掃除や片付けなどが億劫になってきます。
その結果、生活動線が便利な、リビングに近い和室を寝室にするなどして、生活スペースを小さくする傾向があります。
最終的に生活スペースが小さくなることがわかっているのであれば、元気なうちに、老後生活に適切な大きさの家に住みかえる・リフォームするなどで対策することも検討してみましょう。
マンションに住みかえると、何階であってもワンフロアで生活ができるため、後期高齢者になって足腰が弱っても、階段の上り下りの心配なく暮らせます。持ち家を不動産として家族に残してあげたい場合には、家の一階部分を自分たちで使い、二階部分はアパートとして使えるようにリフォームすれば、老後生活の強力な支えにもなります。
4-3.STEP3 余裕があれば資産運用をする
自分の金融資産を把握し、コンパクトな生活にするための準備ができたら、資産運用も検討してみましょう。資産運用とは、お金に働いてもらって資産を形成する方法です。
金融資産のところで解説した、定期預金や株式なども資産運用には含まれますが、今回は、年金的な要素が強い3つの資産運用をまとめました。
4-3-1.iDeCo(60歳まで)
iDeCoは自分の年金額を増やす目的の、個人型確定拠出年金です。日本は近い将来、少子高齢化で公的年金を支える世代が減少していくため、このままでは従来の標準支給額を維持できなくなる可能性があることから、私設年金として個人が自分で年金額を増やせることを目的に作られた国策です。
iDeCoのバックアップは国がしていますので、他の資産運用に比べると破綻しにくいという安心感があり、多くの現役社会人が老後生活のためにiDeCoを利用しています。
・iDeCoの内容>
一般的な老齢年金は、積立額が決められて運用は年金基金や企業がしていますが、iDeCoの場合は、毎月の積立額を自分で設定し、運用も自分でします。
自分が設定した積立額の範囲内で、数多くの金融商品の中から自分が良いと思うものを選び、自分専用の投資信託を作ります。iDeCo自体の利率が存在しないため、金融商品の組み合わせ次第で、利率を自在に設定できるので、努力次第で大きく資産を増やしていくことができます。
iDeCoは毎月積み立て以外に、ボーナス一括払いでの運用もできます。積立金額は年一回までなら変更可能ですので、その時々の自分の経済状態に合わせて、無理のない運用ができます。
iDeCoの運用開始年齢から60歳までの期間、毎月自分で運用し、60歳になったらiDeCoを売却して、元本と運用益を受け取ります。受け取り方法は、一括・分割を選べますので、定年後のライフプランにあったお金の使い方ができます。
・iDeCoのメリット>
iDeCoは、国民が自分の老後資金を作るために作られた国策ですので、iDeCoで金融商品を購入する場合には、本来なら株や債券などの購入するときにかかる証券会社の手数料がかかりません。また、自分の作ったiDeCoで運用益が出ても、その利益に対して課税されません。
毎年の確定申告時にはiDeCoに使った年間の積立額全額が、所得税と住民税の控除対象になります。
・iDeCoのデメリット>
iDeCoは自分で銘柄を選ぶタイプの、証券や債券を使った資産運用ですので、元本割れの危険性はゼロではありません。これらのデメリットを嫌う人のために、元本確保型のiDeCoもあります。
iDeCoは自分で年金を作ることが目的のため、始めたら60歳まで途中解約ができません。例えば、一般の定期預金・株式などのように、まとまったお金が必要になった時でも、解約金を支払って途中解約して使うなどができません。
対策>
途中解約ができない超長期型の運用であることを前提に、長く続けられる無理のない設定額にします。
設定金額は5,000円から1,000円単位で変更できますので、年一回の設定金額見直し時に、現在の経済状態に応じた掛金に変更していきましょう。
【参照:iDeCo】
4-3-2.NISA(60歳まで)
NISAは、一般の人が投資をするときに有利な制度です。NISAはイギリスの個人貯蓄口座「ISA」をモデルにした少額個人向けの投資方法です。
正式名を少額投資非課税制度と言って、簡単に言えば、年間120万円までの投資額であれば、そこから得た売買益や配当金・分配金を一定期間非課税にします、という制度です。NISAの場合は、5年間です。
基本的に配当に対しての非課税のため、短期売買による利ざやを目指すタイプの投資を好む人には向いていません。少額の優良な投資先を選び、長期間持って配当金で収入を得て老後資金を増やしたいタイプには適した方法です。
・NISAの内容>
個人の証券口座に、年間120万円ずつのNISA投資枠をもらい、NISA枠利用での投資を5年間続けます。
120万円×5年間=600万円
になりますので、非課税で株や投資信託を同時保有できる最大枠を600万円分もらえることになります。そして、この600万円までの投資に関しては、運用益に対する税金がかかりません。
・NISAのメリット>
普通の投資の場合、株価が値上がりして配当が起きると、配当に対して20.315%の税金がかかります。仮に、100万円の配当があった場合には、約20万円の税金が取られることになり、手取りは80万円になります。しかしNISAを利用していれば、満額100万円の配当金が自分のものになりますので、かなり大きなメリットです。
・NISAのデメリット>
NISAが有効なのは5年だけですので、その後は課税されてしまいます。例えば、1年に120万円投資して5年間続けた後には、1年目の120万円はNISA6年目になりますので、この1年目NISAはNISA枠から外れるので、通常の課税対象となってしまいます。
また、NISAは利益に対しては非課税の恩恵がありますが、損失の場合の税制上の救済措置はまったくありません。特に、自営で青色申告している場合には、通常なら使える赤字の繰り越しもできないので、損をすると損をしたままになってしまいます。
対策>
1年目のNISA枠が外れたということは、自分のNISA枠が1つ空いたことになりますので、新しいNISA枠を作って再投資が出来ます。
NISA枠から外れた金融商品は、通常の運用に戻るだけですので、売却して含み益を得るか、期待していた配当があるならば保有し続ければ、金融資産は増えていきます。
また、NISAで出た損失に対する対策は、特にありません。というのも、NISAはもともと非課税なので、黒字でも赤字でも課税額は0円です。何かしらのビジネスをしていて、青色申告をしている場合は、本来ならば3年繰り越しを出来る赤字の繰り越しが全くできなくなりますので、注意が必要です。
◆コラム◆NISAとつみたてNISA どっちが老後貯金に向いてるの?
NISAとつみたてNISAは同時利用出来ませんので、老後貯金にはどちらが向いているのか気になりますね。つみたてNISAは非課税となるNISA投資枠が年間40万円・投資期間最長20年までで、非課税投資枠は従来のNISAの1/3、投資期間は4倍になっています。
全期間の投資額は40万円×20年=800万円ですので、従来のNISAよりも非課税枠が拡大はしていることになるため、配当がしっかりもらえるのであれば、老後貯金にはこちらのほうがいいのかな?と感じる方が多いのは当然といえます。
しかし、つみたてNISAは投資できる金融商品が限られており、従来のNISAのように自分が選んだ個別の金融商品を売買することはできず、金融庁が承認している投資信託にしか投資できません。金融庁が厳選していますので、大赤字になる可能性は少なそうですが、
元来、投資は100%自己責任であり、損失に対する救済措置が全くない点は従来のNISAと同じですので、金融庁がお墨付きだとしている投資信託であっても、鵜呑みにするわけにはいかないでしょう。
大きなマイナスがなくても、わずかな利益しか得られないのであれば、将来の老後貯金を作るという目的には、つみたてNISAはあまり適していないようです。
また、すこし利率の良い定期預金のつもりで安定的に積み立てを長期間するつもりであれば選択の余地はありますが、自分の力で確実に老後資金を生み出したいのであれば、期待した結果にはならないでしょう。そのため
- 長期安定した積み立て投資をしたい人:つみたてNISA
- 自分の裁量で投資先を選び老後資金を作りたい人:NISA
ということになります。どちらのNISAを選ぶにしても、同時利用はできないため、つみたてNISAをしていれば1年間は従来のNISAはできませんし、逆も同じです。
【参照:金融庁 NISAとは】
4-3-3.国民年金基金(60歳まで)
国民年金基金というのは、国民年金だけでは支給額が足りないと考える人が掛ける公的年金です。国民年金に上乗せして、年金支給することを目的にしています。
主な対象者は自営業やフリーランスの人と、その配偶者です。そのため、厚生年金保険に加入している会社員の方(国民年金の第2号被保険者)・厚生年金保険に加入している方の被扶養配偶者の方(国民年金の第3号被保険者)は加入ができません。
しかし、夫婦のどちらかが厚生年金保険に加入していても、もう一方がその扶養に入っていないのであれば、その方が加入できます。また、定年を55才など早期にした場合は、会社の厚生年金から外れた時点から加入資格ができます。
・国民年金基金の内容>
掛金は年齢による最低掛金の設定はあるものの、自分の所得に合わせて月額最高68,000円以内で自由に掛金を設定できます。ただし、iDeCoに加入している場合は、iDeCoの掛金との合算が68,000円以内となります。
年金支給額に上乗せをすることが目的ですので、公的年金にゆとり資金として毎月3万円分だけ上乗せしたいなど、自由に年金額の調整ができます。例えば、月額3万円の年金上乗せ額を寿命までもらうためには、40歳から加入した場合は月額約17,000円の掛金になります。※これらの掛金の算出は国民年金基金の「掛金を調べる」で確認できます。
国民年金基金には15年の支払保証制度があるので、受給開始から早くに亡くなったとしても、支払い開始から15年間は遺族に年金が支払われます。通常の公的年金は受取人が亡くなると支払いも停止しますので、受け取り側にとって良い仕組みの年金制度といえます。
・国民年金基金のメリット>
国民年金基金の掛け金は、健康保険などの他の社会保険料と同じように、支払った金額を全額所得から控除できますので、所得税と住民税の節税ができます。節税をしたうえで、掛金は全額自分の老後資産として蓄積され、掛けた分のお金を必ずもらえるのは大きなメリットです。
通常の公的年金と違い、掛金を自分で増やすことができますので(最大枠68,000円)、公的年金が足りないとわかった時点からでも、老後の年金額をハイスピードで増やすことができます。
例えば、早期退職や相続などでまとまったお金が出来たタイミングで、現時点から60歳までの期間だけ最大枠の掛金を支払って、上乗せ額を短期間で確保することもできます。
高い掛金にして途中で支払い困難になった場合でも、掛金の減額・一時停止・解約ができます。解約の場合は返金されず、60歳以上になった時に年金として支給されます。
・国民年金基金のデメリット>
国民年金基金のデメリットは、貯金ではなく「年金」であるため、年金支給開始時期にならないとお金が戻ってこない点です。
また、国民年金基金は、物価の上昇に合わせて支給額が増える「物価スライド」に対応していません。そのため、年金がもらえる年になって、今よりも大きく物価が上がっていた場合には、上乗せのつもりで掛金を払っていたのに、やっぱり老後の年金額が足りない、ということになります。
対策>
どんなにたくさん掛金をつぎ込んでも、そのお金が自分のところに戻ってくるのは60歳であること、インフレに弱いということは頭に入れた上で、掛金を設定しましょう。
まとめ
いかがでしたでしょうか、老後の貯金について以下のようにまとめました。
- 40代・50代の全国平均貯金額
- 定年退職までに準備しておくべき理想の老後貯金額
- 今から老後貯金を増やすための方法3STEP
老後2,000万円問題で不安になった方も、本記事で安心していただけたのではないでしょうか。老後のための貯金額は、その世帯が求める老後の暮らし方によって違いがありますので、平均額は参考にしながら、自分にとって幸せな老後とはどういうものか、と軸にして金額設定をしていくための一助になればと思います。
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