
高齢者の免許返納を考える4つのタイミングと子世代ができる7サポート
高齢者ドライバーによる自動車事故がニュースで大きく取り上げられると、自分の親は大丈夫だろうか、そろそろ免許の自主返納をしたほうが良いのではないかと、気になりますね。
しかし、本人が望んでいないのに、子供が無理に免許を取り上げることはできません。また、普段会っていない親の運転レベルは確かめようもないので、自主返納を促してもよいものなのかがわからず、アプローチ方法に困っていませんか?
そこで今回は、高齢者の免許返納に関して、以下のようにまとめました。
- 運転免許の自主返納とは
- 高齢者の免許返納を後押しできるタイミング
- 親の免許返納タイミングを子世代が判断する3つのポイント
- 高齢者が免許を自主返納できない3つの理由
- 高齢者の免許返納をスムーズにする家族の7つのサポート
最後までお読みになれば、自分の親が免許の自主返納をするべき対象なのかが理解でき、自主返納をしたほうが良いと判断した場合には、スムーズに話を進めるために必要なことがわかります。
目次
1.運転免許の自主返納とは
運転免許の自主返納制度とは、「申請による免許取消」と言い、まだ有効期限が残っている運転免許証を、自らすすんで返納できる制度のことです。
テレビやネットのニュースでは、高齢者ドライバーによる事故や、高齢の芸能人の自主返納が報道されることが多いため、自主返納は高齢者のための制度のように思っていらっしゃる方もいるかと思います。
実際には、運転免許の自主返納に年齢制限はなく、例えば、病気やケガにより自動車の運転を不安に感じるのであれば、20代や30代でも自主返納できます。
本章では、そろそろ運転免許を返納しようか・どうしようかと考え始めたシニア世代の方や、高齢になった親の車の運転が心配になってきた子世代の方向けに、自主返納の内容や手続き方法などがわかるようにまとめています。
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1-1.自主返納かんたん説明
自主返納とは、「高齢により、自動車の運転が不安になった」と感じている高齢者ドライバーの方が、運転免許証を自主的に返納できる方法として、1997年(平成9年)から制度化されたものです。
運転免許の自主返納の内容は、一部・全部とに別れていて、必要な運転免許のみを残しておくこともできます。例えば、以下のような返納方法が自分で選べます。
高齢者ドライバーの運転免許への希望例 | 自主返納 | 残すもの | 返納方法 |
普通自動車は返納するが、トラクター(小型特殊自動車)はまだ畑仕事で使うし、原動機付自転車(原付)も運転したい | 普通自動車免許 | 小型特殊 原付免許 | 一部返納 |
普通自動車と普通自動二輪免許を持っているが、まだ、原動機付自転車(原付)は必要だ | 普通自動車免許 普通自動二輪免許 | 原付免許 | 一部返納 |
普通自動車と原動機付自転車(原付)があるが、どちらも返納しようと思う | 普通自動車免許 原付免許 | なし | 全部返納 |
【参照:警視庁 一部取消しの際に取得申請できる免許の種類】
免許返納の「全部返納」をすると、運転のための免許を持つが必要なくなります。代わりに、今まで安全運転に努めてきた証として、公的な身分証明書としても使える「運転経歴証明書」が発行されます。
ただし、運転免許の停止・取消しの行政処分中の方、停止・取消処分の基準等に該当する方は、自主返納することができません。
【参照:警視庁 運転免許の自主返納について】
1-2.高齢者ドライバーとは
高齢者ドライバーとは、70歳以上の方のことです。社会的な意味での高齢者は、年金受給が始まる65歳ごろからを指していますが、運転免許の場合は、免許更新の際に「運転免許の高齢者講習」がスタートする70歳からが高齢者となります。
以下の表は、平成28年から令和2年までの5年間の自主返納数です。75歳以上の自主返納数が多いことから、行政や周囲が自主返納の促しをしてから、高齢者ドライバーが自主返納を意識しはじめて実行をするまでには、時間のズレがあることがわかります。
【参考:運転免許の申請取消(自主返納)件数と運転経歴証明書交付件数の推移編集部まとめ】
しかし、高齢者ドライバー全般においては、年々、自主返納への意識が高くなっていることもわかります。
1-3.手続き方法・場所
自主返納の手続き方法や場所は以下の通りです。
手続き方法 | 運転免許取消申請書を提出する・無料 |
手続き場所 | 居住地にある警察署または運転免許受付センター |
必要書類など | 運転免許証と印鑑(自治体によって必要書類がある) |
運転経歴証明書の交付 | 6ヶ月以内に撮影した3×4㎝サイズのカラー証明写真1枚。手数料1,100円 |
- 手続き方法と場所
自主返納の手続は、免許を返納する方の居住地にある警察署または運転免許受付センター※で受付をしています。「運転免許取り消し申請書」に記入し、自治体で必要とする添付書類または押印をして免許証と一緒に提出します。 - 必要書類など
基本の持ち物は、運転免許証と印鑑で、返納のための費用は発生しません。ただし、自治体によって準備する必要書類※が異なります。
※注意
自治体によって申請場所や受付時間・申請に必要な書類・要件などの詳細が少しずつ違うので、必ず、事前に各都道府県警察が管轄する運転免許センターで確認をしてください。
東京都 警視庁 | ||||||
北海道 東北 | 関東 | 中部 | 近畿 | 四国 | 中国四国 | 九州 |
【参照:都道府県警察本部リンク】
- 運転経歴証明書の交付
自主返納手続きの時に、運転経歴証明書の交付申請が同時にできます。必要書類は、6ヶ月以内に撮影した縦3cm×横2.4cmのカラー証明写真1枚が必要です。手数料は1,100円かかります。
※運転経歴証明書の交付までにかかる日数は、運転免許試験場は即日、運転免許更新センター・警察署の場合は2週間ほど。
1-4.返納の特典
運転免許を全部返納すると、運転経歴証明書の発行ができます。公的免許として利用できる以外にも、さまざまな特典が受けられます。
特典は主に、マイカーを利用しなくなったために起きる生活の不便を、高齢者本人とそのご家族ともにカバーアップすることが目的です。それ以外にも、マイカーに依存しないでも、快適にシニアライフを楽しめるようにするための、さまざまな施策がされています。
例えば、ほとんどの自治体では、免許返納後の足代わりになる公共交通機関の割引が適用され、バス・電車の料金割引や優待、タクシー割引券が使えるようになります。
近隣のデパートやスーパーなどで買い物をした際には、配送料の割引や、無料配送できる特典が付いているので、今まで通りに、重い荷物や大量の買い物をしても大丈夫なように対応しています。
今後も、警視庁と各行政・自治体の連携により、地域を超えたサポート体制と施策の輪を、さらに大きくひろげていく予定ですが、現在、自主返納をする予定の方が住んでいる自治体で、本人に必要なサポートが用意されているかどうかを確認してから、自主返納を検討するようにしてください。
都道府県名をクリックすると、都道府県警察又は都道府県のウェブサイトにおいて各種支援施策を紹介しているページ(支援施策一覧等)にアクセスできます。
都道府県 | 関連ホームページのタイトル |
高齢者の交通事故防止(北海道) | |
運転免許自主返納者支援事業について(青森県警察) | |
運転免許証の自主返納を考えてみませんか?(岩手県警察) | |
運転免許自主返納者に対する支援施策の実施状況(宮城県警察) | |
運転免許自主返納高齢者支援サービス店一覧(秋田県警察) | |
自主返納サポート事業の紹介(山形県警察) | |
運転免許証の自主返納に関するQ&A(福島県警察) | |
高齢者運転免許自主返納サポート協議会加盟企業・団体の特典一覧(警視庁) | |
高齢運転者の免許証自主返納について(茨城県) | |
運転免許自主返納者等への支援事業について(栃木県) | |
高齢者の運転免許自主返納支援事業について(群馬県) | |
高齢者の交通安全(埼玉県警察) | |
運転免許自主返納(運転免許の申請取消し)について(千葉県警察) | |
神奈川県高齢者運転免許自主返納サポート協議会 加盟・協力企業・団体一覧表 | |
新潟県内における高齢者の運転免許自主返納の支援状況(新潟県警察) | |
運転免許自主返納(山梨県警察) | |
高齢運転者の方へ(長野県) | |
運転免許自主返納者サポート事業〜運転免許自主返納者をサポート!(静岡県警察) | |
富山県の各自治体における運転免許自主返納支援事業一覧表 | |
市町別運転免許証自主返納支援(石川県) | |
高齢免許返納者サポート制度をご利用ください(福井県) | |
運転免許証の自主返納(運転免許の申請による取消し)と運転経歴証明書のご案内 | |
高齢者交通安全サポーター一覧(愛知県警察) | |
運転免許証自主返納サポートみえ(三重県) | |
運転免許証自主返納高齢者支援制度 サービス提供者サービス内容のご案内 | |
高齢者運転免許証自主返納施策について(京都府) | |
高齢者運転免許自主返納サポート制度について(大阪府) | |
運転経歴証明書を提示して受けられる特典の一覧(兵庫県警察) | |
高齢者運転免許自主返納支援制度(奈良県警察) | |
運転免許自主返納者及び高齢者に対する助成制度一覧 | |
運転免許証を自主返納される方への支援制度のお知らせ(鳥取県警察) | |
運転免許証返納に伴う支援制度(島根県警察) | |
おかやま愛カード(岡山県警察) | |
運転免許証を返納された方へ(広島県) | |
運転免許自主返納者に対する支援団体一覧表(山口県警察) | |
自動車の運転卒業支援(徳島県警察) | |
運転免許の自主返納(香川県警察) | |
運転経歴証明書 運転免許自主返納(愛媛県警察) | |
運転免許返納支援について(高知県警察) | |
注意!高齢運転者による事故が増えています(福岡県) | |
自主返納(運転経歴証明書)のご案内(佐賀県警察) | |
運転免許証を自主返納した方への支援 | |
免許自主返納者への支援制度(熊本県) | |
高齢者の運転免許自主返納支援制度(大分県) | |
メリット一覧表(宮崎県警察) | |
高齢者の運転免許自主返納に対する支援制度(鹿児島県警察) | |
運転免許の自主返納制度・運転経歴証明書について(沖縄県警察) |
【参照:運転免許証の自主返納をお考えの方へ 〜各種特典のご案内〜】
2.高齢者の免許返納を後押しできるタイミング
本章では、高齢者の自主返納の後押しを出来るタイミングについてまとめています。以下の簡易チャートは、高齢者の免許更新の内容を振り分けるものです。
赤枠の中が自主返納の対象者ですが、身体能力や認知機能に大きな問題のない高齢者のほとんどは、この赤枠内に振り分けられることになります。
しかし、赤枠内の高齢者に対しての具体的なサポートは、免許更新時の高齢者講習のみであり、基本的に、自主返納は本人とその家族の判断に一任されています。
そのため、親が「危なっかしい運転」をしていても、本人が無自覚であり、自主返納に対して全くその気がない場合には、子世代からの説得が必要になります。
しかし、車がある生活に大きく依存している高齢者ドライバーほど、運転免許の返納を強く拒む傾向があり、家族からの説得が失敗すると、家族仲がこじれるケースにまで発展することがあります。
70歳を境に、さまざまな形で自主返納へのアプローチが、行政やテレビ・雑誌などからもありますので、高齢者ドライバー本人も気にはなっているはずです。
家族からの自主返納へのアプローチは、一回で完了させようとするのではなく、以下のようなタイミングをきっかけにしながら、小出しにしていくようにしましょう。
タイミング1. 認知症の疑いがあるケース タイミング2. 70~74歳の運転免許更新時の「高齢者講習」 タイミング3. 75歳の運転免許更新時の「講習予備検査」 タイミング4. 本人が自分の変化を感じたとき タイミング5. 親の運転に漠然と不安を感じたとき |
2-1.タイミング1. 認知症の疑いがあるケース
親世代に認知症の可能性がある場合には、医療機関で必要な検査をし、認知症の診断が下りた時点で、医師と家族から公安委員会へ申告をして、即・免許の取り消しがされます。
因果関係もハッキリしていますので、半強制的に自主返納ができ、親を説得する必要はありません。認知機能に関した疑いは、運転だけではなく、普段の生活の中でも、
- 火の始末
- 着替えをしなくなる
- 服薬を忘れる
- 金銭トラブルが増える
など、認知症症状のサインとなるものがありますので「何となく変だな」と思ったら、免許更新のタイミングを待たずに、かかりつけ医などによる認知症検査をしてもらうようにします。
【関連記事:認知症の一人暮らしで起きる6つの問題!対策と限界への対処法】
2-2.タイミング2. 70~74歳の運転免許更新時の「高齢者講習」
一般の免許更新は5年に1度(違反運転者は3年)ですが、70歳を過ぎると、免許更新は3年更新となり「高齢者講習」を受けることが義務付けられます。
免許更新のお知らせと一緒に講習通知ハガキが届きますので、案内に従って、お住まいの地域で行われている高齢者講習へ、免許更新期日前までに参加します。
講習には費用が発生し、講習終了後には「高齢者講習終了証明書」が発行されます。
年齢 | 講習の内容 |
70~74歳 | ①DVDなどで、交通ルールや安全運転に関する知識を再確認し、指導員から運転に関する質問などを受けながら、講義を受講します。 ②器材を使って、動体視力、夜間視力及び視野を測定。 ③ドライブレコーダー等で運転状況を記録しながら車を運転し、指導員から助言を受ける。 ④ドライブレコーダー等に記録した映像などを使って、運転に関する個人指導を受け、DVDなどで安全運転を学びます。 ・高齢者講習費用 2時間 5,100円 |
*本人の希望で、臨時認知機能検査(30分 750円)を受けることができます。
◆タイミングの上手な使い方◆
免許更新前あたりから、行政からも、免許更新と自主返納に関したガイドブックなどが配られるようになります。70歳を境に、免許更新のサイクルも短くなりますので、高齢者の中には「とうとう来たか」と感じ始める方もいます。
実際には、まだ現役で運転を出来ている方が多い世代ではありますが、中には、講習中に指導員からドキっとする指摘をされている可能性もあります。
ドライブレコーダーなどを使った的確な運転指導がされていますので、その内容を本人も気にしているようであれば、自主返納を促してみましょう。
2-3.タイミング3. 75歳の運転免許更新時の「講習予備検査」
免許更新時の年齢が75歳以上になると、3年ごとの免許更新時に、高齢者講習の前の予備検査として「認知機能検査」を受ける義務があります。この検査結果によって、以下のように免許更新の流れが変わります。
認知機能検査では、まず認知症の疑いを診断し、同時に、運転に必要な能力・判断力・記憶力が備わっているかを検査します。検査結果は3つに分類され、結果に基づいて、高齢者講習の追加受講などが決まっていきます。
順番1 | 認知機能検査(検査費用 30分 750円) | |
順番2 | 検査結果・第1分類: 記憶力・判断力が低くなっている方(認知症のおそれがある) | かかりつけ医などによる診断書の提出、または臨時適性検査※を受け、認知症ではないという診断を受けた場合は、第2分類と同じ講習内容へと進みます。 認知症の診断が下りた場合は、即免許取り消しとなります。 |
検査結果・第2分類:記憶力・判断力が少し低くなっている方(認知機能が低下しているおそれあり) | 認知機能検査の結果が第2分類または第1分類で認知症ではないと判断された場合は、 ①DVDで、交通ルールや安全運転に関する知識を再確認し、指導員より運転に関する質問などを受けながら、講義を受講します。 ②器材を使って、動体視力、夜間視力・視野を測定。 ③ドライブレコーダー等で運転状況を記録しながら車を運転して、指導員から助言を受けます。 ④ドライブレコーダー等に記録した映像などを使いながら、運転に関する個人指導を受け、DVDなどで安全運転を学びます。 上記のすべてが終了すると、免許更新となります。 ・費用:高齢者講習費用 3時間7,950円 | |
検査結果・第3分類:記憶力・判断力に心配ない方(認知機能が低下しているおそれがない) | ①認知機能検査の結果が第3分類の方は、70~74歳と同様の高齢者講習を受けて免許更新をします。 ・費用 高齢者講習費用 2時間5,100円 |
◆タイミングの上手な使い方◆
診断結果が、本人の運転能力をある程度は証明していますので、第3以外の検査結果だった場合は、本記事3章で解説のある、親の運転能力を観察するスキルを使って、どの程度の安全運転ができているかを確認してみましょう。
運転がきちんと出来ていれば問題はありませんが、ドキっとした瞬間や、怖かったことはその場で口に出し、心配な場合には、自主返納を促してみましょう。
すぐには自主返納につながらないかもしれませんが、安全運転に気を付けるようにはなりますし、高齢者ドライバー本人が、自覚的に返納に関して考えるきっかけとなります。
また、75歳免許更新時の認知機能検査に関しては、市販でドリルやなどの認知機能対策の参考書がありますので、試験対策として取り組むと、認知機能自体も自然と回復します。
【参照:脳活道場スペシャル 運転免許認知機能検査対策のための 運転脳強化60日ドリル】
【参照:運転免許認知機能検査模擬テスト】
2-4.タイミング4. 本人が自分の変化を感じたとき
高齢者ドライバーが、自分の体力の変化を感じ始めた時や、交通違反をした場合は、自主返納をかなり強く説得できるタイミングとなります。
体調不良以外の、体力の衰えや判断力の低下など、
「運転すると疲れやすくなった」
「夕方には視界が悪くなった」
など、高齢者本人が心身の変化をハッキリと自覚する時があります。また、そのような身体の変化が原因で、実際に、交通違反をしてしまうことがあります。
免許更新とは別に、75歳以上の高齢者ドライバーが交通違反をした場合は、通常の違反点数による罰金・反則金以外にも、臨時認知機能検査を受ける義務が発生します。
交通違反とは、以下の政令で定める18種類の違反行為のことです。
|
◆タイミングの上手な使い方◆
上記の違反内容は、元気な時には普通に遵守できているものばかりだったはずですが、高齢による身体能力と判断能力などの低下や、その日の天候による影響などで、違反をしてしまうことがあります。
これらの交通違反による検査内容は、免許更新時の認知機能検査と同様ですが、検査結果が以前の結果より下回る場合には、かかりつけ医師などからの診断書提出命令または、「臨時高齢者講習」を受講し、実車による行動の診断・指導と座学・個別指導を受ける義務があります。
- 講習費用 2時間 5,800円
違反をしたうえで、これらの臨時認知機能検査や臨時高齢者講習を受けなかった場合は、免許停止又は取消しの対象となります。自分の心身能力に疑問を感じている時に、自分が起こした違反に対して、運転能力そのものの検査や指導をされますので、内心はかなり堪えているはずです。
本人が自主返納のことを真剣に検討するきっかけになりますので、家族からも自主返納をそれとなく促してみると良いでしょう。
「交通違反」であれば本人が免許点数の罰則・反則金・検査などで済みますが、「交通事故」になった場合では、それだけでは済まなくなることも含め、家族からの説得のタイミングといえるでしょう。。
【参照:臨時認知機能検査と臨時高齢者講習(75歳以上の方)】
2-5.タイミング5. 親の運転に漠然と不安を感じたとき
子世代が、親の運転に漠然と不安を感じたときも、自主返納への良いタイミングです。例えば、実家に遊びに行った際、駅まで迎えに来てもらい、家に向かうまでの道中、親の運転に同乗してヒヤッとした瞬間はなかったでしょうか。
それが、自分でも同じようにしたかもしれないようなケースならばともかく、どう考えても、「以前の親なら、こんな運転はしなかった」というようなものであった場合には、滞在中にサラッと自主返納の話をしてみてもよいかもしれません。
◆タイミングの上手な使い方◆
親の運転内容について、ヒヤッとした場面については、必ずその場で「怖い気持ちになった」ということを伝えましょう。運転技術などに関する批評ではなく、安心して同乗できないというニュアンスで伝わるようにします。
もともと運転技術に自信があったタイプの親には、高齢者ドライバーによる悲惨な事故などの話をそれとなく向け、ああいうことにならないで欲しいという一般的な話にして、反応を見てみましょう。
本人にも自覚があれば「最近、雨の日と、夕方以降は車に乗らないようにしてるんだ」などの話が引き出せる可能性もあります。本人が無自覚にヒヤリとする運転をしている場合は、次章を参考に、自覚をしてもらうところからスタートしましょう。
◆コラム◆なぜ、高齢者は自主返納を嫌がるのか?高齢者ドライバーの自主返納率は上がっていると言っても、中には、返納をかたくなに拒む方がいます。特に車を足代わりに利用しているわけでもなく、車がなくても困らないはずなのに、自主返納を嫌がる理由は、実はこんなところにあるかもしれません。 〇年齢ではなく、能力で判断して欲しいから〇 高齢者は自分が年を取ったことは自覚していますが、他者から老人宣告されたいわけではありません。免許を返すか返さないかは、自分で決めたいのです。 運転免許センターの申請窓口で、書類も見ないで「返納ですね?」と言われて、激昂する高齢者がいるという話をよく聞きますが、これも単に、年齢や見た目で一方的に判断されたことによって、プライドが傷ついた結果です。 実際、若い方と変わらない能力のまま運転が出来ている高齢者ドライバーもたくさんいますので、そういう方に、高齢を理由に、ひとまとめにして資格を返せと言うのは、確かに失礼と言えます。 〇生活が変わるのが嫌だから〇 免許がなくなることにより、生活が変わってしまうような気がしています。今までの様に、自分が行きたい時に、好きなタイミングで自由に出かけることが出来なくなりますので、その権利が奪われるような気分になる方もいます。 自治体の特典などを利用するか、免許の一部返納だけをすれば、実は生活はそう大きく不便にはならないこともわかっています。しかし、どこまででも自分で遠くに移動できる乗り物に、これから先はもう乗れなくなることが、自分の人生の自由が奪われるイメージにつながっているのです。 〇自分のアイデンティティだから〇 今の高齢者が若かったころは、マイホームを購入して一国一城の主となり、高級車を購入することが、成功のイメージであり、ステイタスの象徴でした。 そのため、特に一部の男性にとっては、車の免許はただの免許ではなく、プライドや思い出の詰まった人生の大切な宝物であり、勲章なのです。つまり、そう簡単には、手放せないものなのです。 〇家族の思い出がつまっているものだから〇 車は家族のために購入した方が多いので、家族の思い出がたくさん詰まっているものです。
など、家族の歴史の象徴となるものが車であり、運転免許である方もいます。それを手放してしまうのは、なんとなく寂しく感じるので、運転はあまりしないけど、返納したくない方もいらっしゃいます。 このように、自主返納は、ただ単に免許を返すということではなく、とてもデリケートな部分が含まれていることを前提にして、親の尊厳を傷つけないようにしながら、愛情を持って話を進めていく必要があります。 |
3.親の免許返納タイミングを子世代が判断する3大観察ポイント
本章では、親の免許返納タイミングを子世代が判断するためのポイントを、3つに絞って説明します。
車の運転は、年齢が問題なのではなく、運転に必要な認知機能・身体機能・安全確認能力が十分に備わっているかが問題になります。以下の3つの観察ポイントに絞って親の運転能力を確認し、免許返納をすべきかどうかの判断材料にしてください。
観察ポイント1. 親の車に同乗して運転12スキルを観察する 観察ポイント2. 親と車を3つの視点で観察する 観察ポイント3. ドライブレコーダーで確認する |
3-1.観察ポイント1 親の車に同乗して運転17スキルを観察する
親世代の運転能力を的確にチェックするのに、最も有効な方法として、運転に同乗して実際の運転状況を確認する「同乗観察」があります。
運転全体でチェックすべきポイントは運転のぎこちなさです。年齢性別に関係なく、運転に不安のあるドライバーの特徴には、急発進・急ハンドル・急ブレーキのような、運転そのもののぎこちなさがあります。
同乗する方が普段から運転をしている方ならば、一緒に乗れば、すぐに親世代の運転レベルが理解できるでしょう。普段から運転をしない方は、「乗り心地が良いか悪いか」で判断します。
ぎこちない・乗り心地が悪い=自主返納ではありませんが、自主返納を積極的に考えたほうが良いかどうかの判断ポイントにはなります。
同乗観察をするチェックポイントは、全部で17項目あります。一部は、2章で解説をした交通違反にも関わるものですので、注意して観察をしてみましょう。
<同乗観察チェック17スキル>
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これらの運転チェックは、当日の天候・時間帯やドライバーの体調に多少の左右はされますので、家族で協力をして、同乗者メンバーと日にちを変えながら、何度もチェックをしていく必要があります。
運転は総合的な能力を使うため、17項目のうち何個当てはまれば、自主返納をすすめるべきかという基準はありません。しかし、運転に必要とされる身体機能があり、安全意識がある方であれば、当てはまる項目は一つもありません。
3-2.観察ポイント2. 親と車を4つの視点で観察する
実家と離れた場所に住んでいて、頻繁に同乗観察によるチェックができない場合は、帰省した時に親と車を以下の4つの視点で観察をして、親の運転状況を判断していきます。
3-2-1.車のキズの多さを観察
高齢者ドライバーの車に、こすりキズが増えてきたら、そろそろ運転卒業のサインです。これらは、車体に残る危険な兆候として、子世代が最も注意をすべきポイントです。
車体のあちこちをこする・ぶつけるのは、車両感覚の衰えです。これを放置しておくと、側溝に脱輪する事故を起こすことがあります。
特に、運転席のある右側にキズが多い場合は、かなりの危険信号です。右側は運転席から確認しやすく、サイドミラーでも常に視界に入っている部分であるにもかかわらずキズが出来るのは、車両感覚がかなり鈍ってきている証拠です。
3-2-2.車の汚れや状態などを観察
車体についた泥などの汚れや、車体のキズを、直しもせずに放置しているのも危険です。洗車などをこまめにしないのは、車のメンテナンスや適切な管理が出来なくなっている証拠です。
また、車についたキズを修理や保修しない理由が「どうせまたすぐにつけるから」であれば、車をこする・ぶつけることがすでに日常化しており、慣れっこになっていると見てよいでしょう。
さらに、周囲の人が車体のキズを指摘しても、いつどこでつけたキズかもわかっていない場合や、自分が付けたものではないと言い張る場合には、認知症の診断も視野に入れて観察する必要があります。
3-2-3.カギや免許証の管理を観察
出発前に車のカギをいつまでも探している、免許証の携帯を忘れてしまうことが頻繁に起きる場合は、認知症の可能性・記憶力の低下を疑う必要があります。
カギと免許証の問題に加えて、同乗運転で確認する「道順」「目的地」も忘れてしまう様であれば、かなり危険な兆候と言えます。
3-2-4.普段の同乗者に聞いてみる
普段、親の車に同乗している人に話を聞いてみましょう。親・兄弟・親族・近所の方も含め、親の運転の様子をチェックできる方から話を聞きます。
運転は、本人の体調や天気や時間帯、走るルートによっても結果が違うことがあるため、複数の方からの意見を聞くと、親の現在の運転レベルを判断するために必要な情報を多く集められます。
ただし、この聞き取りをする場合には、子世代が親世代の免許返納のために動いていることは悟られないようにする必要があります。あくまで、親が事故でケガしたりしないかが心配なので確認するという、誠意ある姿勢で、情報提供者になってもらいましょう。
3-3.観察ポイント3 ドライブレコーダーで観察・確認する
ドライブレコーダーで運転確認する最も良い点は、親が単独で運転している様子を確認できることです。
車の運転をしたことがある方は誰でも覚えがあると思いますが、同乗者がいるときと、1人の時の運転はちょっと違います。1人で運転している時の、車のふらつき・信号無視などの危険な運転や違反行為をしているかどうかは、ドライブレコーダーを見ることで一目瞭然に確認できます。
これからドライブレコーダーを取り付ける際には、録画可能時間が長く、運転チェックに合ったものを、お店の人と相談したうえで購入するようにしましょう。
ただし、親といえども、自分以外の所有する車のドライブレコーダーを、無断で見るのはプライバシーの問題もあります。理想は、親子で一緒に見て、本人にも自覚してもらうのが一番良いでしょう。
ドライブレコーダーを観察して自分の運転能力を確認する方法は、70歳以上の免許更新でも採用されている方法ですので、一緒に見るのに抵抗ない方も多いでしょう。
4.高齢者が免許を自主返納できない3つの理由
本章では、高齢者が免許を自主返納できない理由を3つにまとめています。
4-1.理由1. 車以外の交通手段の選択肢がない
地方になるほど、日々の生活を車に依存している傾向があります。文字通り「足替わり」となっており、1人1台または家族所有で複数台の車があるのは、地方都市では一般的です。
国土交通省の調査によると、三大都市圏を除く地方都市では、20代以上になると通常の移動手段として自動車を使う率が5割を超え、この割合は、その後、80歳以上の高齢者になっても半数を切ることがありません。
以下の表は、三大都市圏と地方都市での、65歳以上の高齢者が利用する交通手段の分担率をグラフにしたものです。
【参照:全国都市交通特性調査 集計データ より編集部まとめ】
三大都市・地方都市のどちらも、自分で運転する自動車は他の手段よりも際立っていますが、地方都市における車の利用率は、都市部の約1.6倍となっています。
また、地方都市での鉄道バスの利用率が目立って低いことから、地方では、免許取得時から、高齢になるまで一貫して、自動車をメインの交通手段としていることがわかります。
実際、地方都市に行けば納得しますが、生活に欠かせない病院・役場・公共施設・銀行・郵便局・スーパー・ドラッグストアなどが家の近くにあるのは、ほんの限られた人だけであり、ほとんどの人は、車などによる移動手段を使って、毎日の生活を送っています。
特に、高齢になると、病院は治療以外にも、健康維持目的のためにも重要な場所となり、若い時よりも頻繁に足を運ぶようになります。
処方された薬をもらう調剤薬局なども病院付近にあるため、健康管理や体調管理のために、本数の少ないバスや電車を乗り継いで何時間もかけて行くよりも、自分や家族に運転をしてもらって行くほうがはるかにラクであることがわかります。
このように、三大都市のような利便性と効率を追求してあるエリアとは違い、地方では、利便性を求めると自動車の利用をせざるを得ないため、自主返納をすれば「生活がとても不便になる」こととイコールになります。
4-2.理由2. 普通に運転できていると思っている
自分の運転を客観視することは難しいので、自分の運転の危険度にはなかなか気が付きません。
特に、運転キャリアが長い高齢者ドライバーであるほど、ご自身の運転能力を過信している傾向があり、運転の危うさに気が付くのは、たいていは本人よりも、同乗者である家族が先です。
危なっかしい運転をしているのに自主返納を考えないのは、自分の運転能力の自己判断と、客観的な判断との間に差があるためです。
同乗観察・車体チェックなどを通じて、以前よりも危険度の高い運転をしていることを話し、必要な場合は、ドライブレコーダーも一緒に見て、「今の運転能力」を自覚してもらう必要があります。
ただし、言い方には注意が必要です。運転スキルが低下したことを家族から指摘されるのは、誰でも嫌な気分になります。しかし、放置していると重大な事故につながる可能性もありますので、伝え方としては、危ない運転をしたときに(録画も含む)
「今の、少しブレーキ遅かったね」
「おお、これは、ドキッとする」
など、車の運転中に起きる急な場面で、誰もが言うであろう一般的な言葉で、危険度を伝えるようにします。そして、その時は、それだけで終わらせて、それ以上は突っ込まないようにします。
高齢者に限らず、失敗を何度もしつこく言われると頭に来ます。怒らせてしまっては何にもなりませんので、危ない運転をしていることをわかってもらうだけにとどめます。
4-3.理由3. 返納することを忘れている
免許の返納は、各自治体の運転免許センターや各警察署に向かうなどの手続きが必要なため、多少、面倒くさいと感じます。返納しようとは思っていても「そのうち」と思ったまま、返納するのを忘れているケースもあります。
特に、普段、あまり車に乗らない生活を送っている方であれば、運転免許は身分証明書として使うくらいしか用途がありませんので、ふと自主返納のことを思い出しても「まあ、使わないし、いいか」と先延ばしになっている可能性もあります。
運転をしないならば、免許を返納しなくても日常生活には困りませんが、万が一、車に乗ることがあれば、大きな事故を引き起こす可能性が残ったままになります。
また、免許を持ったままでは、自主返納をした方が受けられる特典の恩恵を享受できないことも説明し、返納を促しましょう。
高齢者ドライバー本人が、病気やケガなどで申請手続きを自分でするのが難しい場合に限り、申請者の配偶者、同居の親族及び2親等以内の親族による代理申請も可能です。
【参照:警視庁 運転免許証の自主返納の申請をする方(運転経歴証明書の交付は希望しない方)】
5.高齢者の免許返納をスムーズにする家族の7つのサポート
本章では、高齢者の免許返納をスムーズにすすめるための、家族が協力できる7つのサポートをまとめています。
家族のサポート1. ヒヤリとしたらその場で伝える 家族のサポート2. ヒヤリハット記録はつけておく 家族のサポート3. 地域インフラの確認 家族のサポート4. 家族全員のサポート協力をとりつける 家族のサポート5. 親の話をよく聴いてあげる 家族のサポート6. ずっと健康で生きてて欲しいからこその「返納」をわかってもらう 家族のサポート7. 自主返納サポートには時間をかける |
親世代の自主返納は、その後、家族全員のライフスタイルにも影響が出てくることですので、家族の出来事として、しっかりとサポートをしていきましょう。
5-1.家族のサポート1. ヒヤリとしたらその場で伝える
親が、少し危なっかしい運転をしている気がし始めたら、「ヒヤリとしたらその場で伝える」ということを、今後、家族の習慣にしましょう。
このヒヤリは、親の運転だけではなく、他の人の運転でも発見したらすぐに口にするようにします。
「あの車、ウインカー遅かったよね」
「今の対向車、一時停止してなかった気がする」
「あの自転車、車の脇スレスレじゃないか。危ないなあ」
「うわ!お父さん、今の車線変更、怖いよ!」
など、交通違反の要因となることや、事故などの原因となることは、常日頃から言葉にします。日常化していくことで、親は、車社会に起きるトラブル全体を家族と一緒に考えるようになります。
親の運転にケチをつけているわけではないし、親も一緒に他人の危なっかしい運転を見て、当然「危ないな」と感じていますので、抵抗なく受け入れます。
このようなことを習慣化することで、高齢者ドライバーに自分の運転内容に自覚的になってもらい、「自分の運転にも、ヒヤッとするところがあるかもしれない」と考え直してもらう効果があります。
大切なのは「運転中に危ないことがあった」ことが伝わることです。
5-2.家族のサポート2. ヒヤリハット記録はつけておく
ヒヤリハットとは、「ヒヤリとした、あるいはハッとするような、一歩間違えれば重大な事故につながる出来事が起こったものの、結果としては、今回は、重大な事故の発生までには至らなかったケース」のことです。
もともとは、ハインリッヒの法則という「1:29:300の法則」のことで、「1件の重大な事故の背後には、29件の重大な事故には至らなかった軽微な事故があり、さらにその背後には300件もの事故寸前だったできごと(ヒヤリハット)が隠されていた」という調査結果をもとに、労働現場などで災害を未然に防ぐ目的で使われています。
つまり、車の運転でいえば、世間を騒がせた高齢者ドライバーが引き起こした痛ましい事故の背景には、29件の軽微な交通違反や軽い事故があり、そのさらに後ろには、300件ものヒヤリハットが起きていることになります。
この法則は、1人でも複数人の働く事務所でも同じように作用するため、1人の高齢者ドライバーが数年のうちに300回のヒヤリハットを起こせば、近い将来、かなりの確率で重大事故を起こす可能性があるということになります。
親の自主返納が気になりだしたら、できるだけ、このヒヤリハット記録をつけていきます。普段から運転に自信のある高齢者ドライバーほど、自分はうまくやれていると信じているため、自分の失敗に気が付きにくい傾向があります。
また、ヒヤリとした瞬間があっても、時間が経つと忘れてしまっていることもあります。自主返納を家族が考え始めたら、ヒヤリハット記録を断続的にでもつけておくことで、危なっかしい運転が増えてきたときに、数字で説得することができます。
「半年前は、3回乗って1回のヒヤリだったけど、最近はほぼ毎回、ヒヤッとするよ」
など、ただの感覚ではなく、記録した数字をもとに説明することができます。
こんなことを言われればカチンときて怒り出す親もいますが、こまめに記録をしてくれた長い履歴を見れば、自分のためにしてくれたことがわかりますので、最終的には、子が老いた親のことを心配しての行為だとわかってもらえます。
また、兄弟や親族などに、普段からの同乗観察の協力をしてもらう時にも、明確な数字を出しての協力要請であれば、積極的に引き受けてくれる可能性が高くなります。
【参照:厚生労働省 ヒヤリハット活動】
5-3.家族のサポート3. 地域インフラの確認
自主返納を促す前には、必ず、地域インフラや特典の内容を確認しておきます。自主返納をしても、
「車の運転ができなくなるだけで、あとは、今までと同じ」
なのが自主返納の理想の着地点なのですが、現実はそうはうまくいきません。
地元の交通インフラ事情は、自治体の政策や財政状況に大きく左右されるため、計画はあってもすぐには変えられないものも多く、自主返納の実情に追いついていないことのほうが多いでしょう。
このような状態で、ただ子世代から「返納しようよ」と声掛けをしても、おそらく、次のような返事が強い口調で返ってくることでしょう。
- じゃあ、今まで車で行っていた買い物や健診はどうすればいいの?
- お父さんが車の運転辞めたら、誰が私を毎週、病院まで連れてってくれるの?
- ずっとやってきた趣味のゴルフやお茶にも行くなというの?
- 駅まで車で20分もかかる。ちょっとお茶飲むのも自由に出来ないっていうの?
- うるさい。まだ、そんな心配されるほど年取ってない。
子世代が、自主返納で受けられる特典などを先に整理しておき、車がなくても今までとほぼ同様の生活ができる可能性を調べておくことで、返納後のライフスタイルへの不安を消すことにつながり、話もしやすくなります。
自主返納の特典として、交通関係の地域サポートがある自治体もありますが、このサポート体制は、エリアによってびっくりするほどバラバラです。特典の例は以下のようなものです。
都道府県 | 特典内容 |
岩手県 |
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山梨県 |
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静岡県 |
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交通系のサポートに手厚い地域と、そうでもない地域がありますが、全般的に、行政の行うバスを含んだ車移動にはサポートがあります。
また、70歳以上に対して発行されるエリア全域に対する交通割引制度などがありますので、行政・自治体・エリア全体・民間業者の複数の制度を組み合わせた利用が出来ます。
例)
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まずは、自分の親が住んでいるの自治体で使えるサポート体制をチェックし、そのサポート内容で自分の親は、車の代わりとして足りるのかを確認します。そして、足りない部分を、家族で補填できるかどうかも事前に確認しておく必要があります。
※都道府県名をクリックすると、都道府県警察又は都道府県のウェブサイトにおいて各種支援施策を紹介しているページ(支援施策一覧等)にアクセスできます。
北海道 東北地方 | ||||||
東京・関東甲信越 | ||||||
近畿・関西・北陸地方 | ||||||
四国 山陰地方 | ||||||
九州地方 | ||||||
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【参照:運転免許証の自主返納をお考えの方へ 〜各種特典のご案内〜】
5-4.家族のサポート4. 家族全員のサポート協力をとりつける
自主返納の話をする前に、前項で車に代わる交通手段の対策をしておきますが、親が今まで自分で車の運転をしていたことカバーするには、それだけでは足りないことがあります。
そこで、自主返納の説得をメインでしている人以外の、家族メンバー全員、さらに可能ならば、近くに住んでいる親族にも協力要請をします。
例えば、日中は仕事に言っているメンバーの代わりに、昼間は誰が車を出すのかなど、1人では対応しきれないことが部分を、他の家族親族メンバーでカバーしていきます。
車がないと不便なことの代表は、日々の買い物と病院通いです。交通インフラが発達している三大都市以外では、車がないことによる生活の支障は避けて通れないでしょう。
運よく、バス停が歩いていける距離にあったとしても、そのバスが親の行きたい場所を経由するとは限りません。また、一日に何本も走っているのでなければ、買い物も病院も一日がかりとなってしまいます。
自主返納によって車の運転を断念しても、不自由・不便を感じさせないように、一つでも多くの代案を出しておきます。
- 買い物や病院への外出には、サポートメンバーが必ず送迎をする。
- バス利用や経由になれるまでは、病院には誰かが付き添う。
- 公共バス以外にも、新しくできた地域巡回バスも調べておく。
- 呼べばスグに来るタクシー会社はあるのかどうかを調べる、
- 交通費の出費が多い月は、家族で負担をする。
- 近所で使える電動リニアカーの利用を提案する。
- ネットやスマホで普段の買い物ができるように設定しておく。
高齢者の多くは、自主返納によって、自分の移動手段がなくなることを心配しますので、家族サポートメンバーが複数人いて「必ず乗せていく」「手伝う」という約束は、かなり強力な説得の武器になります。
また、これらの約束を守るのは1人では無理ですので、兄弟・孫などの、同じ立場に立つ家族からのサポートの約束も取り付けつつ、親の「足の確保」を整備します。
家族が送迎を常時できない場合は、タクシーやバスを多用することになります。車に乗っていた時よりもお金がかかるような気もしますが、実は、車の維持費(自動車税・保険料・ガソリン代・駐車場代・メンテナンス代・車検代・その他アクセサリーや備品代)がかからなくなるため、家計支出としては大幅に減ることがあります。
エリアによっては移動のための経費が車の維持費よりも多くなる可能性もありますが、自動車事故を起こす可能性がゼロになるのですから、比較の対象にはならないでしょう。
5-5.家族のサポート5. 親の話をよく聴いてあげる
自主返納の話をするときは、自分たちの希望を言う前に、まずは親の話をよく聞いてあげましょう。
何十年も生活の足として頼ってきた車が、無くなってしまうことへの不安とアセリ、自分が高齢者であることの心細さは、その年齢になった本人にしかわかりません。
中には、車に乗らなくなることで、老化が進んでしまうのではないかと密かに気にしているケースもあります。高齢者ドライバーの中でも、特に、頻繁に車を使っていた人ほど、そう思う傾向があります。
車の運転は脳機能と身体機能のさまざまな能力を同時に使うので、車の運転をすることが、アンチエイジングや、脳トレーニング代わりになっているのは事実ですが、車の運転をしない方も、老化もすれば認知症にもなりますので、ドライビングをする・しないは、老化の直接原因とはなりません。
自主返納のために大切なのは、これまで車に頼っていた頭や体の体操を、別のものでフォローしていくことにあります。つまり、車の運転をしない=老化の加速ではないことを、わかってもらいましょう。
- 外出の機会が減らないように、家族でのドライブに誘う。
- 一緒にウォーキングや筋トレを始める。
- 地域のサークル活動などに参加できるようにする。
- 脳トレ用のゲーム機やドリルなどを揃える。
- バス旅行など、車を運転しなくてもできる遠出をする。
など、新しく身体と脳を鍛えるための提案をします。それ以外にも、親が不安に思っていることに耳を方向け、車がなくなることによる不安を、取り除きましょう。
【参照:佐賀大学医学部地域医療科学教育研究センター認知神経心理学分野ブレイン&モビリティラボラトリー 堀川 悦夫 高齢者の自動車運転と運転可否判断】
5-6.家族のサポート6. ずっと健康で生きてて欲しいからこその「返納」をわかってもらう
免許を返納することが目的なのではなく、親にケガや事故のない安心した老後を送ってほしいことが伝わるように、心を砕いて話をしましょう。
テレビやネットニュースなどで、高齢ドライバーによる交通事故のニュースを見ると、居ても立っても居られなくなり、思わず電話をして、明日にでも今日にでも返納して!と言いたくなるでしょう。
そういう時に、次のことが伝わるような言い方ができるように、普段から考えをまとめておきましょう。
- 親のことが心配で仕方がないこと。
- 家族みんなが、父親(母親)の命を大切に思っていること。
などの、子供が親を思う気持ちとしての心情を、自分の言葉でまとめておき、いざという時に、正しく伝えられるように準備をしておきます。いくら親子という近しい関係であっても、間違っても
「もしお父さん(お母さん)が事故を起こしたら、家族みんなに迷惑がかかるんだからね!」
というような、優しさや思いやりの足りない言い方は、絶対にしないようにしてください。
子世代が親に自主返納をして欲しいのは、大切な親が、ケガや事故の心配がない状態で、ずっと健康で長生きしてほしいからであることが伝わるように、感謝と敬意のある言葉をつかいます。
親もまた、誰かの子供だったわけですから、老いた親を子がどのように心配しているのかは、手に取るようにわかります。心配していることが伝わっているなら、自主返納の話をされただけで、怒り出すようなことにはなりません。
5-7.家族のサポート7. 自主返納サポートには時間をかける
年を取ると頑固になる、という言葉を聞いたことがあると思います。なぜ頑固になるかというと、長い年月を生きてくることによって、人生の経験値が増えるため、どうしても若い人よりも知識と体験が多いという自負があるためです。
何かを話されても、自分の体験と照会して「違うな」と思ったら譲れなくなります。まだ若い20代の方でも、後輩からのアドバイスを受け入れにくく感じることはあると思いますが、それと同じです。
自主返納の問題が、高齢者ドライバーの重大な交通事故予防などに関わっていることは、親も十分に理解していますが、自分の子供に言われると、頭ではわかっていても、なんとなく抵抗を感じるタイプもいるということです。
自主返納には、本人の意志が必要です。親に、自分で考えて、自分で答えを出してもらうまでには、時間がかかることも想定しておきましょう。
自主返納の話をしても即決を求めず、この自主返納のサポートには短く見積もっても、半年~1年以上はかかる覚悟で取り組めば、イライラすることもなくなり、自主返納にまつわることで親子喧嘩をする必要もなくなります。
本記事を読んでも、まだ少し、親に自主免許の話をすることに不安が残る場合には、各エリアの運転免許センター内にある、運転適性相談窓口へ行ってみましょう。ここでは経験豊富な看護師やカウンセラーを配置し、自主返納をすすめたい家族のための相談にも対応しています。
◆コラム◆最後のジョーカーは、「孫」人は「自分より若い人の言うことは素直に聞き入れられない」はず………なのですが、孫となると話が違ってきます。 祖父母は親ではないので、孫に対する「監督責任」がありません。自分が親だった時の、厳しい子育ての部分は排除し、子育ての楽しかった部分だけを孫と共有しようとするのが、祖父母です。 一緒に過ごす孫からの笑顔や感謝の言葉は、祖父母からすると、自分に対する非常にわかりやすい、絶対的なプラス評価です。 人間はプラスの評価をされると、脳が快感を覚えてしまうので、ついつい、孫の笑顔見たさに、繰り返しいろんなことをしてしまうのです。これが、一般的に言う、孫は目に入れても痛くない、孫に頼まれたら「イヤ」とは言えない理由です。 また、祖父母と孫の間には、ジェネレーションギャップがあるほど大きな年の差があるからこそ、2者の関係性は、ストレートな愛情表現だけで結ばれます。 そのため、孫に言われた自主返納に対する多少の厳しい意見くらいなら、ストレートな愛情として素直に受け取ることができます。 家族がどれほど心配だからと懇願しても、一切耳を貸さなかったのに、孫が一言「もう危ないし、そろそろ運転は卒業しよっか」と言っただけで、「うん、そうだね!」と、すんなりと自主返納になることがあります。 自主返納への切り札として、孫にひと肌脱いでもらうことも検討しておきましょう。 【参照:尾木 直樹 親子共依存】 |
まとめ
いかがでしょうか。高齢者ドライバーの免許返納に関して、以下のようにまとめました。
- 運転免許の自主返納とは
- 高齢者の免許返納を後押しできるタイミング
- 親の免許返納タイミングを子世代が判断する3つのポイント
- 高齢者が免許を自主返納できない3つの理由
- 高齢者の免許返納をスムーズにする家族の7つのサポート
高齢者ドライバーは、年齢が問題なのではなく、自動車の運転をするために必要な能力が、衰えていないかどうかが問題になります。
高齢の親を持つ子世代だからこそ、去年の親と今年の親は同じではないことを前提に、本記事で紹介したポイントを抑えつつ、適切なタイミングで自主返納ができるように、上手なサポートが出来ることを応援します。
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