
「老後の生活は年金だけでは2,000 万円不足するらしいが、どれだけ貯蓄しておけばいいのか」
「ゆとりある老後のための資金目安は1億円と雑誌に書いてあった。本当にそんなに必要?」
「そもそも老後の生活では、何にどれくらいお金がかかるんだろう?」
老後の資金の目安については様々な情報が飛び交っていますが、実際のところどれくらいお金がかかるのか、不安を感じているのではないでしょうか。
この記事では、
・老後資金は具体的にいくら必要なのか
・老後資金の目安をどうやって算出すればいいのか
・老後資金が不足しそうな場合、それを補うためにどのような方法があるのか
これらについてお伝えしていきます。
また、夫婦世帯と独身世帯で必要な老後資金にどの程度違いがあるのかについても簡単に述べていきます。
読み終えた時には、自分にとって必要な老後資金の目安がはっきりと分かり、老後のための準備に取り掛かることができるでしょう。
1. データが示す平均的な老後資金の必要額は約1,500万円
ゆとりある老後の生活のためには、老後資金は一体いくら準備すればよいのでしょうか?
この章では、根拠のある情報を元に、老後資金の目安をお伝えします。
1-1. 老後に必要な資金の目安は「老後の生活プラン」によって大きく変わる
実は、老後資金の目安に「完全な正解」はありません。
老後資金がいくら必要なのか、正解は「人それぞれ」。「どんな老後を送りたいか」で出費は大きく変わってきます。
例えば「夫婦二人で毎月旅行をたり、趣味に打ち込んだり、ある程度余裕を持って暮らしたい」という人と「贅沢をせずに慎ましく過ごし、趣味などもお金をかけずに楽しみたい」という人では、老後にかかる必要経費が全く異なるのは想像できると思います。
つまり、「自分がどんな生活をしたいか」を具体的にできなければ、必要な資金の目安も分からないのです。
まずは自分が描く老後イメージを具体的にした上で、その生活を実現するためには一体どれくらいお金がかかるのか、試算(シミュレーション)をする必要があります。
1-2. 資料から試算した「老後に必要な資金額の目安」は約1,500万円
様々な意見はあるものの、「老後に必要な資金額の目安」は約1500万円程度と考えられます。
この数字の根拠はいくつかありますが、ここでは2通り、簡単に説明します。
❶金融庁資料からの概算
2019年6月、老後に必要な預貯金が「約2,000万円」という金融庁の報告について報道でご覧になった方は多いのではないでしょうか。
「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」」
https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf P10
これは、
・夫が65歳以上の厚生年金受給者・妻が60歳以上の国民年金受給者(専業主婦)の「平均的な高齢者夫婦無職世帯」
・毎月の不足額は平均で毎月約55,000円程度となっており、預貯金を取り崩している
・リタイア後の年月を日本人の平均寿命から20年〜30年
そこから計算した不足額総額は
<20年の場合>ー55,000円×12ヶ月×20年=約 -13,000,000円
<30年の場合>ー55,000円×12ヶ月×30年=約 -20,000,000円
この間をとって、概ね1500万円が必要資金の目安と考えられます。
ただし、上記はあくまでも平均的な支出額・平均的な年金受取額での試算、しかも専業主婦の世帯に限るという、世相の一部を切り取った概算でしかありません。
例えば、老朽化に伴う住宅のリフォーム費用などは含まれていません。退職金や持ち家、子供の有無による出費の差も省略されています。
受け取る年金額は「夫も妻も厚生年金の場合」「夫も妻も国民年金の場合」など、状況により大きく異なってきますが、そのことも省かれており、個々の事情に合ったものではありません。
❷調査資料からの試算の一例
生命保険文化センターの「平成28年度生活保障に関する調査」(2019年現在の最新資料)によると、
・夫婦2人で老後生活を送る上で必要と考えられている最低日常生活費平均額:月額22.0万円
・老後の最低日常生活費以外に必要と考えられている平均額:月額12.8万円=「ゆとりある老後」のためには22万円+12.8万円=月額34.8万円
この数字を元に、仮に金融庁資料と同じ「夫が厚生年金・妻が国民年金の平均的年金収入世帯」で考えると、1ヶ月の必要経費は「最低限の約22万円で暮らす場合」と「最もゆとりある約35万円で暮らす場合」で全く違う計算結果になります。
<最低限の支出額の場合> (200,000円ー220,000円)×12カ月×20年= – 4,800,000円
<最大にゆとりある支出額の場合>(200,000円ー350,000円)×12カ月×20年= -36,000,000円
数字だけなら、この平均値も約1500万円になります。
けれどもこれは、あくまでも「どういう老後を送りたいか」というアンケート結果の「平均値」からの概算であり、個々の事情に即したものではありません。
例え年金収入が少なくても、支出が少なければ余裕ある生活ができるでしょうし、預貯金も少なくて済みます。年金収入が多くても無駄な出費が多ければ老後破産もあり得ます。
1-1.で述べたとおり、老後に必要な資金の目安は「老後の生活プラン」によって大きく変わることがお分りいただけると思います。
<参考資料>
厚生労働省:
・「平成 29 年簡易生命表の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life17/dl/life17-14.pdf
・「平成29年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
P8=厚生年金受給者の平均年金月額、P22=国民年金受給者の平均年金月額
https://www.mhlw.go.jp/content/000453010.pdf
・平成28年度「生活保障に関する調査」(平成28年12月発行)
P36=2-(2)「老後の最低日常生活費」、P37=2-(3)「老後のゆとりのための上乗せ額」
http://www.jili.or.jp/research/report/pdf/h28hosho.pdf
明治安田生命による資料:
・「2018 年度の公的年金額と 2017 年の高齢者世帯の収支」*約1500万円が老後必要資金と試算している。
https://www.meijiyasuda.co.jp/mybizsupport/contents/common/bizinfo/myilw/pdf/report_01.pdf
2. 「老後資金」シミュレーションのススメ
「老後に必要な資金の目安は約1500万円」。
……とは言うものの、具体的な数字は「老後の生活プラン」によって大きく変わることが分かりました。
この章では実際に老後の生活についてさらに具体的に、1章では想定していなかった
・収入=「退職金」「預貯金」「個人年金保険」
・支出=「リフォーム費用」「葬式代」「子供への援助やお祝い金」
なども考えに入れて、どの程度のお金が必要になるのか考えていきます。
2-1. 老後資金の目安を知るためにはシミュレーションが必須
老後に必要な資金は個人の生活パターンや状況によっても異なり一概には言えませんが、今から必要な経費を考えて備えることはできます。
まずは現時点で「老後」にどの程度収入と支出があるのか、この先の大きな収入や支出はどういうものがいつ頃あるのか、考える必要があります。
そして最も大切な「老後の生活プラン」、毎月いくらくらい出費するのかを十分に考えましょう。
次の項目で大まかに計算できるので、具体的な数字を入れて、自分にとって必要な老後資金の目安を出してみましょう。
この方法とは別に、現在の状況や将来設計を元に30年後、40年後にどの程度資金が不足するのか、どの程度あればよいのかを導き出すシミュレーションシステムがあります。
例えば、比較的若い世代ならば
「今後子供が出来た場合に教育費にどの程度かかるのか」
「家を購入するためにどの程度頭金を貯めるべきなのか」
「いつから夫婦共働きにすべきか」
「それらの計画通りに生活した場合、老後にどの程度資金が不足するのか」
を試算することができます。
主に「現在から数十年後にかけてどういう生活をすればどれくらいかかるお金が変わってくるか」を見るのに特に便利です。
もちろん、若い世代に限らず、間も無く定年退職を迎える世帯にも有効です。
金融機関HPにあるシミュレーションフォームや家計診断サイト、または保険総合窓口で無料のファイナンシャルプランナーによる相談を受け付けているところもあるので、利用してみると良いでしょう。
2-2. 自分に必要な老後資金を知る最も基本の計算方法
「大まかに、老後にいくらぐらいお金が必要なのか知りたい」方のために、最も基本となる老後資金の計算方法をお伝えします。
なお厚生労働省の「簡易生命表(2017年)」では、日本人の平均寿命は「男性:81.09歳」「女性:87.26歳」となっています。ここから平均寿命を約85歳と考え、この項目では65歳から85歳までの20年間で計算します。
①「(年金収入ー1ヶ月の支出)×12ヶ月×20年」を計算
1章でも出てきた基本の式です。ここに自分の具体的な数字を当てはめていきます。
なお、年金がいくらもらえる予定なのか、正確な数字は「日本年金機構」の公式サイトで調べることができます。
②公的年金以外の「まとまった大きな収入や資産」を計算
退職金・預貯金・個人年金保険などを計算します。
③「まとまった「ライフイベント」支出」を計算
住宅のリフォーム代金、計画してある旅行などの費用や車の購入維持費用、葬式代、その他子供や親への援助費用などを計算します。
【例1】夫婦世帯(夫:厚生年金 妻:国民年金)モデル
・退職金は厚生労働省「就労条件総合調査」における平均値を入れています。
・預貯金が少なめ。
・バブル後の利率の良い時期に個人年金をかけ始めたので年間で受け取れる金額が多め
・夫が車が好きなので、もう一台は買い換えて楽しみたいと考えている
・戸建持ち家あり。ローンは完済。現時点の資産価値(土地のみ)5,000万円ほど
【例1】夫婦世帯のモデル
①基本の計算 | A:1ヶ月の年金収入 | B:1ヶ月の支出 | C:月数 | D:年数 | 計算結果❶ |
(A-B)×C×D | 250,000 | 300,000 | 12 | 20 | -12,000,000 |
②まとまった収入の計算 | A:退職金 | B:預貯金 | C:個人年金(年間) | D:個人年金の受け取り年数 | 計算結果❷ |
A+B+C×D | 15,000,000 | 5,000,000 | 800,000 | 20 | 36,000,000 |
③まとまった「ライフイベント」支出の計算 | A:リフォーム代金 | B:旅行・自動車費用 | C:夫婦二人の葬式代 | D:子供・親への援助、付合い費他 | 計算結果❸ |
A+B+C+D | 3,000,000 | 5,000,000 | 4,000,000 | 5,000,000 | 17,000,000 |
|
|
| ❶❷❸の合計 | 7000000 | |
④⑤医療費・介護費等の備え | A:医療費の備え概算 | B:介護にかかる費用の備え概算 | 計算結果❹❺ | ||
A+B | 10,000,000 | 10,000,000 | 20,000,000 | ||
|
|
| ❶❷❸❹❺の合計 | -13.000,000 |
【例2】単身世帯(厚生年金)モデル
・葬式は簡単に済ませる予定
・車は持っていない
・預貯金は少なめ
・持ち家(1LDK分譲マンション・資産価値1,500万円・ローン完済)
・退職後は旅行に行きたい
・子供はいないが親へ多少なり援助をする可能性がある
【例2】単身者世帯のモデル
①基本の計算 | A:1ヶ月の年金収入 | B:1ヶ月の支出 | C:月数 | D:年数 | 計算結果❶ |
(A-B)×C×D | 190,000 | 220,000 | 12 | 20 | -7,200,000 |
②まとまった収入の計算 | A:退職金 | B:預貯金 | C:個人年金(年間) | D:個人年金の受け取り年数 | 計算結果❷ |
A+B+C×D | 15,000,000 | 500,0000 | 300,000 | 20 | 26,000,000 |
③まとまった「ライフイベント」支出の計算 | A:リフォーム代金 | B:旅行費用 | C:葬式代 | D:子供・親への援助、付合い費他 | 計算結果❸ |
A+B+C+D | 500,000 | 2,000,000 | 1,000,000 | 5,000,000 | 8,500,000 |
|
|
| ❶❷❸の合計 | 10,300,000 | |
④⑤医療費・介護費等の備え | A:医療費の備え概算 | B:介護にかかる費用の備え概算 | 計算結果❹❺ | ||
A+B | 15,000,000 | 15,000,000 | 30,000,000 | ||
|
|
| ❶❷❸❹❺の合計 | -19,700,000 |
①②③までで、右下の「❶❷❸の合計」がプラスならば、ひとまず安心。
マイナスならば、その金額を今から用意しておいた方が良いということになります。
ここからは医療費と介護費の備えを考えます。
④「医療費は高額療養費制度があるので1ヶ月に一定額以上かからない」とはいうものの…
日本では、健康保険に加入している患者は、所得に応じて、ある一定以上の医療費は公費負担となり払い戻しされることになっています。
しかし以下のような資料もあります。ここからの概算では、65歳以上からかかる医療費は平均して1300万円程度になります。
ニッセイ基礎研究所:「医療費は各年齢でどれくらいかかるものなの?」
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=58018?site=nli
このため、この【例1】夫婦世帯は、医療費は1,000万円用意することにしましたが、2人分と考えるとまだ不足かもしれません。
一方【例2】単身者世帯は、病気になっても人を頼れないことから備えを厚くして、1,500万円用意することにしています。
なお、例えば、がん治療のために先進医療を受けることを選択した場合は全額自己負担になります。
この場合は治療内容によりかかる費用が異なりますが、概ねそれだけで1ヶ月に100万円以上の医療費がかかってしまいます。
がんの備えのためには貯蓄よりも、がん保険に加入しておく方法が現実的です。
⑤介護費用・老人ホーム入居費用は選択で異なる
【例1】の夫婦の場合、持ち家があるので、老人ホームに入る際は家を売り入居一時金にすることもできます。
しかし念のため1,000万円を備えとしました。
【例2】単身者はマンションですが、資産としての価値は、立地を選ばないと大きく下がってしまいます。老人ホームの入居一時金にするためにも、資産価値の目減りしないマンション、例えば都心に近い駅近マンションなどを選ぶ方が有利です。
こちらも医療費と同じく、マンションは別として、1,500万円を備えとしました。
介護費用は介護保険でまかなわれます。要介護認定を受けると1割負担になりますが、使える点数に上限があります。これは地域のケアマネージャーや福祉事務所の判断となり、今からどの程度かかるのかははっきりとは分かりません。不安な場合は地域の福祉事務所などに、概ねどの程度必要なのか、問い合わせておくとよいでしょう。
老人ホームの入居費用も「どのタイプの老人ホームを選択するか 」、また「その時の要介護度認定がどの程度になるか」などで異なります。(参考:「老人ホーム」と呼ばれる施設やサービス付き高齢者向け住居の種類)
例えば入居一時金が何千万単位で必要な高級老人ホームもあれば、入居初期費用はごくわずかで、年金の範囲で支払える住宅型老人ホームやグループホームもあります。
こちらも、元気なうちから「体が動かなくなったり認知症になった際にどのようなホームに自分は入りたいのか」「老人ホームではなく最期まで在宅で過ごしたいのか」など、あらかじめ夫婦で話し合うこと、単身者なら計画を立てておくことが大切です。
この項目も、念のためと思う場合は居住地の役所に問い合わせ、上記の表に加えて計算しましょう。
<参考>
「日本年金機構 年金見込額の試算」
https://www.nenkin.go.jp/n_net/n_net/estimatedamount.html
「先進医療とは? どれくらい費用がかかる?」
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/medical/12.html
全国健康保険組合「高額な医療費を支払ったとき」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3030/r150
全国健康保険組合「70歳以上の方の高額療養費の上限額が変わります(平成30年8月診療分から)」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/home/g3/cat320/sb3190/sbb3193/300725
2-3. 夫婦世帯と単身世帯では老後に必要な資金額は異なる
厚生労働省や生命保険会社の試算では、平均世帯とされるのは「夫婦」ですが、昨今では単身者世帯も増えています。
総務省の情報通信白書によると、2040年には単独世帯の割合は約40%に達すると予測されており「特に65歳以上の単独世帯数の増加が顕著」とされています。
ここでは大まかに、夫婦世帯と単身者世帯では、上記の表を元に、どちらがどのような出費が多く、また備えておくべきなのかを簡単にまとめます。
❶日常生活費:夫婦世帯の方が高くなりがちだが、あくまでも「どんな生活を送るか」による
出費は食費や生活雑費など、単純計算で2人の方が単身者より増えると考えられます。
ただし、夫婦共働きだった世帯で夫婦ともに厚生年金が受け取れる場合は収入も増えます。
一方、単身世帯は出費は1人分で夫婦世帯より少ないものの、年金収入も1人分しかありません。
とはいえ、節約することも1人で自由に決められるので、資金の動かし方も夫婦世帯よりは少なくできると考えられます。
どちらも、どんな生活を送るか、居住地域などによっても出費は異なります。
❷レジャー・交際費・資金援助・その他まとまった「ライフイベント」出費:夫婦世帯は高くなりがち
夫婦世帯では③「まとまった「ライフイベント」支出」は1,700万円必要でした。
一方、単身世帯だと、まとまった支出は、単身者の場合、夫婦世帯と比べて半分の850万円で済んでいます。
子供がいる夫婦の場合、老後は子供の結婚や新居購入、孫の誕生などの行事があると、お祝いや援助などでまとまった出費が必要になります。
持ち家がある場合は、一定期間ごとにまとまった修繕費やリフォーム費用もかかります。
また、一般的な傾向として「現役の頃にできなかったので老後は夫婦で定期的に旅行に行きたい」という意見はよく見うけられます。この場合は旅行・レジャー費用もかかります。
高齢者の免許返納制度は徐々に浸透していますが、75歳頃までは好きな車を運転して楽しみたいという人や、地方ならば生活のために車は必須という方も多いでしょう。そのため、自動車購入・車検費用などがかかる場合もあります。
このように、夫婦世帯の方が、基本の生活費以外に「必要な出費」が多い傾向はあるようです。
一方、単身者も老後は趣味や旅行を楽しみたい方はいると思われます。自由に楽しむことは生活の潤いになりますが、将来のために使いすぎないよう気をつけましょう。
子供がいない単身者は子供に関わる出費はありませんが、年老いた親への援助の負担がかかる場合もあります。
一概に夫婦世帯と比較して必ず単身者世帯の方が出費が少ないとはいえません。これも「どのような生活を送るか」で変わってきます。
❸介護費・医療費:単身者は特に準備を入念に
医療費と介護費は、夫婦世帯は各1,000万円ですが、単身者世帯の方が備えを厚くして、それぞれ1500万円用意することにしています。
この結果、単身世帯の合計は夫婦世帯より多くなりました。
何故多く備えているかというと、要介護となった場合、単身者は「配偶者の手助け」「子供からの援助」が期待できないからです。
「自分が要介護状態になったらどうするのか」「老人ホームに入る場合はどのタイプのホームにするのか」等、元気なうちから準備などを入念に進めておく必要があります。
介護だけでなく、病気になっても、単身者は自分一人で対処する準備が必要です。そのため、日頃から健康に気をつけることはもちろん、生命保険に入ったり、医療費・介護費に十分な貯蓄をしておくことをおすすめします。
夫婦の場合も、資金準備はもちろん必要です。要介護になった場合、全ての世話を配偶者が担うのは不可能なので、デイサービス等を利用することになり、その費用負担も発生します。
何より、夫婦の場合は二人の意見が異なってしまい、老人ホームへの入居が捗らないことがあります。元気なうちに、夫婦で、要介護となった場合のことをしっかりと話し合っておきましょう。
<参考>
総務省 平成30年版 情報通信白書 第1部第1節1-(1):「単独世帯の増加」
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd141110.html
3. 老後資金が不足しそう…どうすればいい?対処方法4つ
計算やシミュレーションの結果、今のままでは老後資金が不足してしまいそうだとわかった場合は、「貯蓄や投資に励む」「家計を見直す」「個人年金に追加で加入する」「妻も働き始める」など「今からできる方策」を立てることが、もちろん大切です。
しかし「準備をしていたはずでも、退職後に想定より資金が不足する事態になったらどうすればいいの?」と不安に思う方もおられるでしょう。
この章では「老後の生活が始まってからも使える、資金不足に対処できる方策」を紹介します。
3-1. 60歳以降、または65歳以降も継続して働く
65歳以上も、可能な限り長く働く方法です。
正社員ではなく、アルバイトでも、例えば月に10万円程度稼ぐだけでもかなり収入は異なります。
例えば、夫が月に6万円、妻が4万円アルバイトで稼いだとします。
これを65歳から70歳まで続けると、5年間で600万円になります。
もう少し頑張れば、1,000万円稼ぎ、年金で生活してアルバイト分を貯蓄することも十分に可能です。
なお、この方法では収入により、受け取れる年金額が減らされる場合がありますが、働く意欲を削ぐということで、この制度は近い将来廃止されると言われています。
<参考>
生命保険文化センター:「在職老齢年金について知りたい 60歳台前半は、「28万円超」なら年金額を調整」
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/oldage/13.html
日本年金機構:「在職老齢年金の支給停止基準額が平成31年4月1日より変更になりました」
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2019/2019040102.html
3-2. 「高齢者雇用継続給付金」を活用する
勤務し続けてきた会社で60歳定年を迎えた後、同じ会社で65歳まで働き続けられる場合が増えています。しかしその場合、60歳までの月給より大幅に下がってしまう場合があります。
「高齢者雇用継続給付金」とは、この給料の下がり幅の割合に応じて、給付金を支給する制度です。
給付の条件は以下の通りとなります。
【高年齢再就職給付金】
基本手当を受給し再就職した方を対象とする給付金で、基本手当を受給した後、60歳以後に再就職して、再就職後の各月に支払われる賃金が基本手当の基準となった賃金日額を30倍した額の75%未満となった方で、以下の5つの要件を満たした方が対象となります。
1.60歳以上65歳未満の一般被保険者であること。
2.基本手当についての算定基礎期間が5年以上あること。
3.再就職した日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上あること。
4.1年を超えて引き続き雇用されることが確実であると認められる安定した職業に就いたこと。
5.同一の就職について、再就職手当の支給を受けていないこと。
厚生労働省:「Q&A~高年齢雇用継続給付~」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158464.html
給与が大幅に下がった場合の補填として給付金を支給し、生活に困窮しないための制度です。支給要件を満たす場合は必ず活用しましょう。
ただし、受給金額によっては老齢年金がカットされる場合もあるため、地区のハローワークに問い合わせることをおすすめします。
3-3. 年金受給年齢を繰り下げする
3-1.の方法で働き続ける選択をした場合、65歳に到達した時点でも十分に夫婦の稼ぎがあるならば、年金の受給を「繰り下げる」ことができます。
年金の受給を65歳より先に繰り下げることで、受給額がアップするという恩恵があります。
請求時の年齢 増額率
請求時の年齢 | 増額率 |
66歳0ヵ月~66歳11ヵ月 | 8.4%~16.1% |
67歳0ヵ月~67歳11ヵ月 | 16.8%~24.5% |
68歳0ヵ月~68歳11ヵ月 | 25.2%~32.9% |
69歳0ヵ月~69歳11ヵ月 | 33.6%~41.3% |
70歳0ヵ月~ | 42.0% |
<表引用元>日本年金機構:「老齢基礎年金の繰下げ受給」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-06.html
例えば、月の受給額が65歳時点で20万円だとすると、これを70歳からの受給に繰り下げた場合、
200,000円×1.42=284,000円
毎月8万円以上も多く受け取れることになります。
「繰り下げによる増額請求して受給」と「増額のない年金を遡って受給」の、どちらか一方を選択できます。
なお、70歳到達(誕生日の前日)月より後には、時効により年金が支払われない部分が発生してしまいます。必ず70歳到達月までに請求するよう注意が必要です。
ところで、逆に「年金受給時期を繰り下げる」という方法もあります。65歳になる前に資金が不足した場合に、前倒して受給する方法です。
一見都合の良い方法に見えますが、前倒しの場合は、繰り下げとは反対に受給額が減額になります。本来もらえるはずだった年金が減らされてしまうのは避けたいですね。
65歳までは働き、65歳以降70歳までも、年金が不要な程度に稼げると安心です。そのためには今から健康に気をつけて、自分のスキルの幅を広げておくことも必要です。
3-4. 戸建持ち家がある場合は「リバースモーゲージ」を活用する
「リバースモーゲージ」とは、戸建の持ち家を、その家に住みながら担保に設定し金融機関から老後資金を借り入れる、高齢者専用のローンです。
この方法は、日本では元来土地付きの戸建に価値を見出し、また戸建住居を子世帯に相続させる考えが残っているため、あまり定着しているとは言えません。しかし、最近徐々に注目を集めています。
「リバースモーゲージ」が普通の住宅ローンと違う大きなポイントは、返済方法にあります。
「リバースモーゲージ」は、契約者が死亡した後、担保に設定していた戸建住宅を売却することで一括返済します。
そのため、元金を毎月返済する必要はありません。毎月の返済は金利のみとなります。
これも金融機関により「毎月の支出は金利の支払いのみ」の他に「金利も元金に含めてまとめて返済する」など、それぞれ異なります。
契約対象者は55歳〜65歳以上の高齢者に限定されています(金融機関、商品により異なります)。
本来は「土地の方にマンションより継続的な価値を見出す」という日本の不動産業界の性質上、戸建専用の制度でしたが、近年では需要の高まりと共にマンションでも利用できるものも出てきましたので取引のある金融機関に問い合わせることをおすすめします。
なお、この方法の最大のデメリットは、「土地の相続ができなくなる」点です。そのため、法定相続人との話し合いや周知が必要です。
4. まとめ
老後資金はいくら必要なのか、その目安となる金額と、その計算方法についてお伝えしました。
老後資金の目安は平均して1,500万円程度と考えられますが、正解はありません。実際に必要な老後の資金額は、個々の老後のライフプランや、老後に到るまでの状況により異なります。そのため、
「老後、自分はどのような生活を送りたいのか」
「毎月どの程度お金が必要なのか」
「将来的に大きなお金が動くのはいつで、そのためにどの程度の金額が必要なのか」
を、時間をかけてじっくり考え、準備する必要があります。
また、老後に資金が不足しそうな場合に役立ちそうな方策についてもお伝えしました。
定年退職後にすぐ趣味に打ち込む生活は憧れですが、それに固執するのではなく、健康に気をつけ、長く働き続ける充実した人生を送ることも視野に入れながら、必要な資金について計画を立てることが大切です。
この記事が、老後の生活プランを具体的にして資金の目安を立て、そのために準備を始めるお役に立てれば幸いです。
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