
大切な家族が認知症になり、より良いサポートのために施設への入居を検討していると、グループホームと老人ホームのどちらも、認知症の受け入れをしていることがわかります。
なるべく認知症への理解が深い施設を選び、入居後も笑顔で過ごしてほしいのですが、ネットや本で調べただけでは、2つのホームにどんな違いがあるのかがハッキリとせず、選びきれないのではないでしょうか。
そこで今回は、グループホームと老人ホームの違いに関して以下のようにまとめました。
- グループホームと老人ホームの違い
- グループホームと老人ホームの違い 主たる10サービス比較
- グループホームと老人ホームかを迷った時の選び方3つ
- ホーム選びに大切な4つのこと
最後までお読みいただければ、両者の違いが良く理解できるようになり、ご家族にはどちらがより適切な生活の場であるのかが選べるようになります。
1.グループホームと老人ホームの違い
本章では、グループホームと老人ホームの違いを、違いがハッキリするようにまとめてあります。
グループホームが公的な施設であることから、本記事で比較対象として取り扱う老人ホームは、基本的に公的施設(特別養護老人ホーム)または公的施設に準じたサービスをする民間施設との比較になります。
以下の表は、各施設の概要をまとめたものです。
グループホームはこんなところ |
|
老人ホームはこんなところ |
公営:主に特別養護老人ホームを指します。 要介護3以上、在宅でのケアが難しい65歳以上の高齢者が介護保険で入居できる公営施設。 民営:主に介護型有料老人ホームを指します。施設の介護職員が必要な介護サービスをする民営施設。「特定施設」の指名があれば、施設内で常時、介護サービスができる。 |
1-1 グループホームはこんなところ
1-1-1.グループホームの目的
認知症の診断があり、要支援2~要介護1~5までの認定を受けた、地域に住民票がある高齢者のための施設です。
介護が必要な状態となっても、できる限り住み慣れた自宅や地域で生活を続けられるように、市区町村が主体となって提供する「地域密着型サービス」*のひとつです。
*本章のコラムを参照してください。
1-1-2.グループホームの特徴
1グループ5~9人で共同生活を送りながら、日常生活で必要な介護と支援を受けます。施設には個室・リビング・食堂・キッチン・浴室などがあり、小さな寮のようなつくりをしています。
入居者は原則、個室で生活をします。居室面積は収納部分を除いて4.5畳~6畳ほどで、多くの場合、トイレと浴室は共同です。
午前中はレクリエーションなどで認知機能をサポートする学習や活動をします。午後は各自の予定と当番などの役割をこなし、グループで一緒に食事をして、夜は自室で眠ります。
日々の共同生活の中で1人ひとりに役割があり、その役割を通じて認知症の進行の緩和を目指します。認知症特有の不安感をやわらげ、心身ともに安定・安心した日常生活が送れるようになることを目的にしています。
1-1-3.グループホームの対象者
入居対象者の条件は、以下の5つです。条件を満たさないと入居許可が下りない傾向にあります。
- 65歳以上の高齢者
- 要支援2 または 要介護1〜5までの認定を受けている方
- 医師に認知症の診断を受けた方
- 集団生活を営むことに支障のない方
- 施設と同一の市区町村に住民票がある方
1-1-4.グループホームの雰囲気
画像引用元:医療法人 新生会
少人数で家庭的なケアをする場所ですので、施設というよりも「家」に近い雰囲気があり、自宅にいたときと近い生活ができます。個室には自宅で使っていた家具や家具を持ち込むことができ、より自分の家に近い雰囲気にできます。
1-1-5.グループホームの規模
5~9人までを一つの生活グループ(施設ではユニットと呼びます)とし、1施設には最高で2グループまで入居できます。施設によって多少の違いはあるものの、全体的に小規模です。
1-1-6.要介護度
要支援2または要介護1~5の認定が必要です。生活ベースが共同生活と役割分担のため、スタート時点での寝たきりや要介護度が重いケースで、認知症ケアが難しい場合は入居を断られることもあります。
1-1-7.グループホームの主なケア内容
認知症の方の日常生活に必要な介護(食事介助・入浴介助)の支援や、機能訓練プログラムが受けられます。施設内に希望するプログラムがない場合は、相談の上、外部への通所(デイケア・デイサービス)利用もできます。
グループホームには医師・看護師の常駐がないため、医療依存度が高くなると適切な医療対処ができなくなるため、グループホームを退去しなければならなくなります。
現時点で入居希望者に認知症以外の持病がある場合は、将来のことも考えたうえでの入居を判断します。
コラム◆地域包括ケアシステム◆
グループホームのような地域密着型サービスとは、国策として厚生労働省が推進する地域包括ケアシステムを実現するために導入された自治体サービスで、地域の介護サービスや医療施設との綿密な連携強化がされています。
地域包括ケアシステムとは、介護が必要なった高齢者が、住み慣れた自宅や地域を離れずに暮らしていけるように、以下の5つのサービスを包括的に受けられるようにする国家支援体制のことです。
①介護
②介護予防
③医療
④生活支援
⑤住まい
地域包括ケアシステムの基準として、上記の5つのサービスの依頼から30分以内に自宅に駆け付けられる範囲(主に中学校区)に、必要なサービスが全て整う環境を目指しています。
これらのサービスの代表窓口となるのが、各自治体に配置された地域包括支援センターです。このセンターには、社会福祉士・保健師・主任ケアマネジャーなどの有資格職員が常駐し、各自の専門性を活かした相談対応を無料でしてくれます。
地域包括ケアシステムの構築は現在進行形であり、より多くの支援が必要とされている部分から出来上がっていっている状態です。このケアシステムにより、近い将来には
・介護が必要な状態の高齢者
・1人暮らしの高齢者
・体力が乏しく虚弱な高齢者
・入退院をする高齢者
たちが、可能な限り在宅で生活できるように国と地域が支える仕組みが出来上がります。住み慣れた思い出の詰まった自宅と町から離れないでも、老後に必要なサポートを受けつつ、利用者と家族全員のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の確保を目指しています。
【参照:地域包括ケアシステム】
【参照:地域包括支援センター】
1-2 老人ホームはこんなところ
老人ホームについてのまとめです。本記事は「グループホームと老人ホームの違い」をまとめていますが、グループホームが公的な性格をもつ施設であることから、老人ホームも、同じく公的な性格を持つ
施設である特別養護老人ホーム(公営老人ホーム)を中心にまとめてあります。
1-2-1.老人ホームの目的
公営老人ホームは、常に介護が必要な状態で、自宅での介護が困難な高齢者を養護するために作られた公的施設で、高齢者の終の棲家としての役割も持ちます。「特別養護老人ホーム(特養)」とも言います。
民営老人ホームは「有料老人ホーム」と呼ばれる民間施設で、比較的手厚い生活支援・介護サービスなどを提供する高齢者用の居住施設です。公的施設に比べ、自立から要支援・要介護の方まで幅広く受け入れをします。
どちらとも介護保険法に基づき「持っている能力で自立できるように支援する」ことが目的ですが、民営の老人ホームのほうが一般的なお客様サービスに近いものがあります。
1-2-2.老人ホームの特徴
公営・民営ともに、10~12人程度までの人数を一つの生活単位(グル―プ)とし、担当するスタッフが必要な介護サービスと生活上のサポートをします。
公営老人ホームは、介護保険で入居でき、低コストです。所得による軽減措置・緊急性を優先・地域住民優先(地域密着型のみ)など、支援と介護サービスが必要な人に平等にサービスが提供されます。
民営は、公的施設よりも費用は高めになりますが、介護タイプ・住宅タイプ・健康タイプなど、運営母体によって建物・サービス・設備・医療ケアの手厚さなどに個性と特色があります。
民営老人ホームの中で、介護付き・介護型を名乗れるのは「特定施設」(特定施設入居者生活介護)の指定を受けている施設のみです。特定施設以外の老人ホームの場合、介護サービス利用には別途契約が必要です。
1-2-3.老人ホームの対象者
- 公的老人ホームの場合
- 65歳以上の高齢者
- 要介護3以上
- 自宅での介護が困難な方
- 民営老人ホームの場合
- おおむね60~65歳以上
- 介護型民間施設は要支援1以上
- その他民間施設は、入居時自立または要支援1 〜要介護5など
施設によって大きく異なります。
1-2-4.老人ホームの雰囲気
画像引用元:コンソルテ新緑苑
公的・民間ともに、高齢者という共通項以外はバラバラの背景の方が入居しているため、雰囲気は一言では伝えづらいものがあります。規模が小さいほうが入居者・スタッフとも顔なじみになりますので、家庭的な雰囲気になります。
一つの目安として、施設長やスタッフ長の介護に対する考え方と態度は、その施設全体の雰囲気を醸し出す傾向があります。
1-2-5.老人ホームの規模
公営老人ホームには、広域型・地域密着型の2タイプがあります。
・広域型:
定員が30人以上で居住地域に制限がない、最も一般的なタイプの特別養護老人ホームです。現在のところ定員上限はないため、多い施設では200人を超えるものもあります。
・地域密着型:
定員が29人以下で、設置されている市区町村の居住者のみが入所できる特別養護老人ホームです。
少人数定員のため、広域型に比べると家庭的です。
民間老人ホームは、運営会社によって施設規模がバラバラです。
1-2-6.要介護度
公営老人ホームは要介護度3以上の認定が必要です。民営老人ホームで、特定施設である介護付き老人ホームの場合は、要支援1以上です。
1-2-7.老人ホームの主なケア内容
公的老人ホームでは、入浴・排泄・食事などの介護と、その他必要な日常生活の支援がされます。民間老人ホームで特定施設の場合は、公的老人ホーム同様の介護と、その他の必要な日常生活上の支援がされます。
上記以外の民間老人ホームは、施設内で必要な日常生活のサポートを受けながら、必要な介護サービスを外部の会社と別途契約し、ホームまで通いで来てもらうことになります。
公的・民間老人ホームとも、入所者の健康管理および療養上の指導をするために、必要なだけの医師と看護師を配置することが法令で決められているため、施設内である程度の医療対応は可能ですが、医療行為の充実度は施設によって差があります。
ただし、医師と看護師の常駐(24時間)は義務ではないため、夜間の緊急対応などは地域医療との連携で対応しています。
2.グループホームと老人ホームの違い 主たる10サービス比較
本章では、グループホームと老人ホームの違いを、主たる10サービスで比較しました。
比較内容 | グループホーム | 老人ホーム |
月額費用 | 地域家賃相場に準じた家賃+生活費 | 公営:5~15万円 民営:15万円~ |
入居一時金 | 施設による | 公:0円 民:数十万~数億円 |
負担軽減制度 | あり | 公:あり 民:なし |
居室の広さ | 個室のみ。平均4.5~6畳 | 原則個室。公:5畳~ 民:8.9畳~ |
見守り体制 | 入居者:介護スタッフ割合 1:3 | 入居者:介護スタッフ割合 1:3 |
入居者の自由度 | 役割と共同作業があり、認知症の方が生活しやすいように適切な管理がされている。 | 介護の必要がない場合は、安全の確保を前提に、自由に行動ができる。 |
レクリエーション | 認知症に効果のあるものを中心にする | みんなが楽しめるものを中心にする |
医療体制 | 看護士の配置義務なし。 緊急時は地域の医療連携で対応。 病気の場合はかかりつけ医などの訪問診療。 | 看護士の配置義務あり。 協力医療機関と提携をして、定期健診・訪問診療を実施。看護師による毎日の健康管理がある。 |
介護ケア | 必要な介護サービスと生活支援。 | 必要な介護サービスと生活支援。 |
運営母体 | 自治体の指定を受けた地域の民間事業。 運営監督は自治体が主体。 | 民間企業、社会福祉法人、医療法人、NPO法人。各施設が独自に運営。 |
2-1.月額費用
グループホーム | 老人ホーム |
地域家賃相場に準じた家賃+生活費 | 公:5~15万円 民:15万円~ |
2-1-1.グループホームの月額費用
グループホームの月額費用は、介護サービス費用以外は、基本的に普通の1人暮らしと同様に、家賃と生活費、その他の費用がかかります。
以下は、厚生労働省が運営する介護事業所・生活関連検索サイトから、サンプルとして任意にチョイスした2つのグループホームの費用をもとに、月額費用を試算したものです。(介護保険の負担割合は2割とします)
例)月額費用:①+②+③+④=149,400~159,700円
■毎月発生する金額■
①家賃 77,000~78,000円(地域の同じ平米数の部屋に準じる)
②食材料費 1,200~1,500円/日 37,200~46,500円/月(家計調査(家計収支編)時系列データに準じる)
■利用に応じて発生する金額■
③介護サービス費 全国平均の介護サービス費合計は1人 176,000円です。この費用をそれぞれの介護保険負担割合で支払いますので
・1割負担で平均17,600円
・2割負担で平均35,200円
・3割負担で平均52,800円
のどれかになります。※負担割合は毎年7月に送られてくる介護保険負担割合証記載があります。
④その他費用 理容代など 必要な場合は加算されます。今回は0円計算です。
【値段比較元:東京都江東区 優っくりグループホーム 江東北砂・グループホームきらら南砂町】
2-1-2.老人ホームの月額費用
老人ホームの月額費用を公営と民営で分けて解説します。どちらも介護サービス費用は介護保険を適用しますが、それ以外の費用は自己負担です。
- 公営
公営老人ホームでは、介護サービス以外の費用は、一律に決められた居住費・食費、施設によって料金設定のある日常生活費が自己負担となります。この自己負担額には、所得に応じた軽減制度があります。
以下は、厚生労働省の運営するサイトの特別養護老人ホーム利用料の数値をもとに、一か月の費用を試算したものです。(介護保険負担割合は2割です)
公営老人ホーム)月額費用:①+②+③+④=139,050円
■毎月発生する金額■
①家賃 ユニット型個室 一律1,970円/日×31日=61,070円
②食材料費 一律1,380円/日 42,780円/月
※①②とも所得に応じた軽減負担制度があります。
■利用に応じて発生する金額■
③介護サービス費 全国平均の介護サービス費合計は1人 176,000円です。この費用をそれぞれの介護保険負担割合で支払いますので
・1割負担で平均17,600円
・2割負担で平均35,200円
・3割負担で平均52,800円
のどれかになります。※負担割合は毎年7月に送られてくる介護保険負担割合証記載があります。
④その他費用 理容代など 必要な場合は加算されます。今回は0円です。
【参照:厚生労働省 サービスにかかる利用料】
- 民営
民営老人ホームは、介護サービスは介護保険適用、それ以外の居住費・食費、その他費用に関しては、各施設が設定した利用料金になります。
利用料金は、施設の規模・エリア・コンセプト・運営会社などにより大きな開きがあります。
入居を検討する施設のパンフレットと重要事項説明書を取り寄せ、公営施設・グループホームと合わせて比較をし、グループホームまたは公的老人ホームの月額費用と類似した金額から選択していくようにします。または、資料を持って地域包括支援センターの窓口で相談もできます。
2-2.入居一時金
グループホーム | 老人ホーム |
施設による | 公:0円 民:数十万~数億円 |
2-2-1.グループホームの入居一時金
入居一時金制度のある・なし、入居一時金償却のある・なしは、施設によって違います。
入居一時金の金額は数万~100万円までと幅があり、この金額差や償却の有無は、施設のあるエリア・立地条件が影響しています。
グループホームは基本的に地域の住宅街に施設がありますので、エリアの地価が高く、立地条件が良いところは保証金も高額になり、経営上の立場から、保証金の償却をする傾向があります。
入居一時金の金額や償却の有無に関しては、契約書と重要事項説明書に記載があります。グループホームは同地域内に複数の施設がありますので、入居一時金のないところから選ぶこともできます。
2-2-2.老人ホームの入居一時金
公営老人ホームには、入居一時金はありません。民営老人ホームの入居一時金には、施設によって大きな違いがあり、0~数億円までの幅があります。
2-3.負担軽減制度
グループホーム | 老人ホーム |
あり | 公:あり 民:なし |
2-3-1.グループホームの負担軽減制度
グループホームで利用できる負担軽減制度は以下の3つです。
- 高額介護サービス費制度
- 自治体助成金
- 生活保護
- 高額介護サービス費制度
高額介護サービス費支給制度とは、グループホームで1か月間に支払った介護サービスの自己負担額(1~3割)の上限金額を超えたときに、その超えた分が払い戻される制度です。上限限度額は、以下の表の通りです。
高額介護サービス費の上限額一覧 | ||
本人か世帯全員が 住民税を払っている | ① 3割負担 | 世帯 負担上限額 44,400円 |
② ①③④⑤以外 | 世帯 負担上限額 44,400円 | |
世帯全員が住民税の 課税をしていない | ③ ④⑤以外 | 世帯 負担上限額 24,600円 |
④ 年金年収80万円以下 | 世帯 負担上限額 24,600円 個人 負担上限額 15,000円 | |
⑤ 生活保護者 | 個人 負担上限額 15,000円 |
支給対象は介護サービスのみですので、グループホームの家賃や食費(その他 福祉用具の購入)には使えません。
表の中に、個人と世帯があるのは、個人で上限額にならなくても、世帯で介護費用の上限額を超えれば申請可能なためです。例えば、両親の介護費用を合算して、1世帯(夫婦)で上限額を超えていれば、差額が支給されます。
高額介護サービス費支給制度に該当する場合は、利用した施設から申請書が来ます。一旦手続きをすると、2回目からは条件が該当すれば自動で払戻金が口座振り込みされます。
【参照:高額介護サービス費の基準】
- 自治体助成金
各自治体が独自でグループホーム入居者に対する助成を行っていることがあります。主に住民税非課税世帯などの低所得者を対象にしています。
収入と資産に関する要件が合えば、毎月の費用負担を軽くできます。以下は、自治体ごとに出している補助金・助成金事業の一例です。
例)
グループホームの家賃及び光熱水費に対し、一年間 軽減月額8,000~12,000円
グループホームの家賃及び食材料費への軽減負担
グループホームの家賃・食材料費・光熱水費の費用負担
助成金などの情報をインターネットで調べる場合は、入居者の住民票がある自治体ホームページの福祉課ページなどに最新の情報が掲載されています。または、利用している地域の地域包括支援センターの窓口か、施設内のパンフレットで情報を得ることができます。
- 生活保護
グループホーム利用中に経済的に困難な状況に立たされた場合は、生活保護を受けることができます。また現在、生活保護を受けている状態でも、グループホームへの入居ができます。
生活保護は、食費・光熱費などの日常生活に必要な費用をまかなう生活扶助、家賃をまかなう住宅扶助など全8種類の保護内容があり、介護にかかわる費用は「介護扶助」です。
介護保険は収入に応じて費用の1~3割が自己負担ですが、生活保護受給者になると「介護扶助」が適用されて自己負担が0円になります。これ以外に、グループホームの食費や光熱費が支払い困難な場合に生活扶助、グループホームの家賃には住宅扶助の適用が可能です。
【参照:生活保護制度】
2-3-2.老人ホームで使える負担軽減制度
老人ホームで使える負担軽減制度は、以下の3つです。負担軽減制度は基本的に低所得者または経済的に困難な状態にある方向けの制度のため、民営老人ホームで高額な賃料を支払っているケースでは、申請をしても認可されません。
- 介護保険の負担限度額認定制度
- 高額介護サービス費制度
- 社会福祉法人の「利用者負担軽減制度」
- 介護保険の負担限度額認定制度
介護保険の負担限度額認定制度とは、介護保険施設の住居費と食費を軽減できる制度です。要件は以下の通りです。
①所得の基準
世帯全員が住民税非課税であること。世帯を問わず配偶者も住民税非課税であること。世帯が年金収入のみの場合は、世帯収入が120万円以下で住民税が非課税であること。
②預貯金等の基準
- 配偶者がいない方 1,000万円以下
- 配偶者がいる方 合計2,000万円以下
市区町村に申請するため、社会福祉課や地域包括ケアセンターに相談してください。
【参照:介護保険負担限度額認定証について 】
- 高額介護サービス費制度
高額介護サービス費支給制度とは、グループホームで1か月間に支払った介護サービスの自己負担額(1~3割)の上限金額を超える時には、その超えた分が払い戻される制度です。上限限度額は、以下の表の通りです。
高額介護サービス費の上限額一覧 | ||
本人か世帯全員が 住民税を払っている | ① 3割負担 | 世帯 負担上限額 44,400円 |
② ①③④⑤以外 | 世帯 負担上限額 44,400円 | |
世帯全員が住民税の 課税をしていない | ③ ④⑤以外 | 世帯 負担上限額 24,600円 |
④ 年金年収80万円以下 | 世帯 負担上限額 24,600円 個人 負担上限額 15,000円 | |
⑤ 生活保護者 | 個人 負担上限額 15,000円 |
支給対象は介護サービスのみですので、グループホームの家賃や食費(その他 福祉用具の購入)には使えません。
個人で上限額にならなくても、世帯で介護費用の上限額を超えれば申請可能なためです。例えば、両親の介護費用を合算して、1世帯(夫婦)で上限額を超えれば、差額が支給されます。
高額介護サービス費支給制度に該当する場合は、利用した施設から申請書が来ます。一旦手続きをすると、2回目からは条件が該当すれば自動で払戻金が口座振り込みされます。
【参照:高額介護サービス費の基準】
- 社会福祉法人の「利用者負担軽減制度」
社会福祉法⼈が運営する特別養護⽼⼈ホームの利⽤者負担額が軽減されます。原則として低所得者に向けた制度です。
介護サービス費の自己負担額、食費・部屋代(賃料)の1/4または1/2が軽減されます。生活保護者は利用料の全額を負担します。自己負担が1割の方を図にすると、このようなイメージです。
要件は以下の通りです。
- 住民税が非課税であること
- 単身世帯で年間収入が150万円以下(世帯員一人につき50万円を加算)
- 単身世帯で預貯金の額が350万円以下(世帯員一人につき100万円を加算)
- 生活するための範囲を超えた資産がないこと
- 住民税課税者と同居したり扶養されたり、援助を受けたりしていないこと
- 介護保険料を滞納していないこと
施設の利用者本人が居住する市町村に申請をし、審査後に「軽減確認証」を発行してもらいます。利用者は、施設利用の際に、軽減確認証を提示すると、利用サービス料が軽減されます。
【参照:社会福祉法人等による利用者負担軽減制度について 】
- 生活保護
特別養護老人ホーム入居中に経済的に困難な状況に立たされた場合、または入居前から生活保護を受けている状態でも、公営老人ホームへの入居ができます。
生活保護には全8種類の保護内容があり、老人ホームの場合は
- 日常生活に必要な費用
- アパート等の家賃
- 医療サービスの費用
- 介護サービスの費用
の費用を収入に応じて国が負担をしてくれます。例えば、介護保険は収入に応じて費用の1~3割が自己負担ですが、生活保護受給者になると「介護扶助」が適用されて自己負担が0円になります。
前項の社会福祉法人の「利用者負担軽減制度」と併用することもできます。民営老人ホームの場合は、生活保護を受ける前に、まずは民営から公営の特別養護老人ホームへの移転を提案され、移動後も経済状態に改善が見られない時には、申請受理となる傾向があります。
【参照:生活保護制度】
2-4.居室の広さ
グループホーム | 老人ホーム |
個室のみ。平均5~6畳 | 原則個室。公:5畳~ 民:8.9畳 |
公営・民営とも「個室」とは、床から天井までが壁などで区切られた、完全なプライバシーを守れる空間のことを指します。そのため、パーティションなどで区切られただけで上部や下部に空間がある部屋は準個室と呼びます。
2-4-1.グループホームの居室の広さ
グループホームは個室での暮らしが基本ですが、利用者の介護サービス提供に必要な場合は、1個室に2人までの入居ができます。
居室の床面積は7.43平米(約5畳)以上あることが法令で決まっています。部屋の広さは、グループホームがある地域の個室またはワンルームの平米数と比例します。そのため、地域によっては6畳以上の広い個室を完備する施設もあります。
2-4-2.老人ホームの居室の広さ
公営老人ホームは原則が個室で定員1人ですが、数多くある施設の中には2~4ベッドが一つの部屋にある多床施設もあります。法令で入居者1人当たりの床面積は10.65平米(7.4畳)以上確保することが決まっています。
2-5.見守り体制
グループホーム | 老人ホーム |
入居者:介護スタッフ割合 1:3 | 入居者:介護スタッフ割合 1:3 |
グループホーム・老人ホームとも、法令で決まった入居者と介護スタッフ配置割合があり、その人数割合は遵守しなければなりません。現在では、どちらもユニットケア方式という見守り体制を取っています。
ユニットケアとは、グループホームや公的老人ホームのような、自宅に近い環境の介護施設で、他の入居者や介護スタッフと共同生活をしながら、入居者一人ひとりの個性や生活リズムを崩さないままで、その人らしく暮らしていけるようにサポートする介護手法のことです。以下は、典型的なユニットケアの図です。
図を見るとわかる通り、個室と共有スペースが両立しているため、プライバシーを守りながら、他の入居者と交流をする社会空間があります。
このユニットケア方式の導入により、要介護が重い状態の人が集まる施設で問題視されていた、機械的なケア・集団ケアのような効率重視の介護サービスではなく、1人ひとりの個性や症状を理解した上での個別ケアに近い見守りが可能となりつつあります。
2-5-1.グループホームの見守り体制
グループホームの場合は5~9人という少人数を1つの「ユニット」(グループ)とし、1施設には最高で2ユニットまでしか存在しません。(※一部3ユニットある施設もあります)
ユニットに固定配置された顔なじみの介護スタッフが、入居者の個性や生活リズムを尊重した生活をサポートし、家族のような距離感で見守りをします。以下の図は、グループホームのユニットケアの代表例です。
グループホームのユニットケアの特徴は、他のフロアへ出る部分がなくなり、1ユニットで完結した生活空間を作りあげます。
認知症は記憶の一部がつながりにくくなるという病気ですので、可能な限り、毎日の生活の中が「いつもの」「なじみのあるもの」だけで取り囲まれているほうが、認知機能の維持と改善に役立ちます。このようなユニットケアの中で、スタッフが24時間の見守りをします。
2-5-2.老人ホームの見守り体制
老人ホームの場合は、公民ともに、12人程度までを1つの「ユニット」(グループ)とし、各ユニットに固定配置された顔なじみの介護スタッフが、入居者の個性や生活リズムを尊重した生活をサポートし、和やかな雰囲気の中で見守りをします。
施設規模によって、このユニットが増えていくことになります。ユニットのタイプは代表例と同じです。
上図のようなユニット部分以外にも、入居者全員に開放されたレクリエーション室やリビングに相当するような場所があり、それぞれ自由に行き来して使えます。ただし、認知症の症状が重い場合は、外出は禁じられ、基本的に施設内での適切な見守りがある生活となります。
民間の場合は、上記のような基本ユニット方式以外にも、運営会社ごとに独自の視点で見守り方式を編み出しています。中には建築の段階から規格をし、独自の見守りシステムを構築する、構造物そのものを見守りに適したものにするなど、独自のプランを持ち、施設に反映させています。
2-6.入居者の自由度
グループホーム | 老人ホーム |
役割と共同作業があり、認知症の方が生活しやすいようにコントロールされている。 | 介護の必要がない場合は、安全の確保を前提に、自由に行動ができる。 |
2-6-1.グループホーム入居者の自由度
認知症があることから、歩行に困難がなくても、万が一の迷子などを防止するため、1人での外出は禁止されています。施設内では好きなように過ごすことができ、役割などの共同作業を通じて、認知症の進行緩和ケアが日々、適切に管理をされています。
2-6-2.老人ホーム入居者の自由度
老人ホームでは、安全の確保(歩行に問題がない・地理が頭に入っている)ができていれば、1人での外出が自由ですが、認知症の方は、1人での外出は禁止されています。
ただし、外出に付き添う家族やスタッフがいれば、事前に外出届等を提出し、出発時間と帰着時間の予定などの連絡先が明示できれば、外出や宿泊もできます。
2-7.レクリエーション
グループホーム | 老人ホーム | |
認知症に効果のあるものを中心にする |
|
2-7-1.グループホームのレクリエーション
手先を使うものや回想療法、音楽療法、園芸療法、アニマルセラピーなどの脳に働きかけ、認知症に効果があるものを中心にしたレクリエーションが組み立てられています。
これ以外に、共同作業の役割などを含め、施設内の守られた環境の中で一日を普通に暮らしながら、認知症の進行緩和を目指しています。レクリエーション企画は、施設ごとに職員が企画立案・運営をします。
2-7-2.老人ホームのレクリエーション
参加者全員で歌を歌ったり、体操をしたり、ゲームをしたりするなど、グループで同じプログラムをする「集団レクリエーション」が老人ホームのレクリエーションの基本です。
バラバラの背景を持つ多くの人が入居をしているため、施設内でのコミュニケーションを深め、孤独感を解消し、入居者同士の絆を深めることが目的です。認知症の方も、本人が参加を希望する場合は、集団レクリエーションに参加をします。
本人が集団レクリエーションに参加をしたくない場合は、個別レクリエーションという個人や少人数で行うレクリエーションをします。
認知症の方は脳が非常に疲れやすいという、認知症特有の身体症状があるため、苦手なもの・知らない状況に頑張って取り組ませるよりも、本人が楽しめるものをさせるほうが効果があります。そのため、過去に活動していたもので興味を持ちやすいものなどを中心にしたレクリエーション活動をしてもらいます
集団・個人とも、職員がレクリエーション企画をし、運営をします。
【参照:効果的な認知症予防事業に関する実践的研究】
【参照:集団レクリエーション介入が認知症高齢者における行動・心理症状(BPSD)およびQOLに及ぼす効果】
2-8.医療体制
グループホーム | 老人ホーム |
看護師の配置義務なし。 緊急時は地域の医療連携で対応。 病気の場合はかかりつけ医などの訪問診療。 | 看護師の配置義務あり。 協力医療機関と提携をして、定期健診・訪問診療を実施。看護師による毎日の健康管理がある。 |
2-8-1.グループホームの医療体制
グループホームの日常健康管理(検温など)は介護スタッフが行います。グループホームには看護師の配置義務がないため、医療行為が必要な場合はかかりつけ医に往診をしてもらうか、診療所やクリニックなどに受診をしに行き、服薬などの指示を受けます。
施設によっては、看護師を雇用し・訪問看護事業所と提携して日常的な健康管理や、医療処置が必要になった場合に適切な対応が取れる医療体制を完備するために「医療連携加算」を取っているグループホームもあります。
医療体制と状況については、入居予定のグループホームに直接確認するか、入居予定者の地域包括支援センターに問い合わせをしてください。
【参照:厚生労働省 医療連携体制加算】
2-8-2.老人ホームの医療体制
老人ホームには看護師の配置義務があるため、必ず施設入居者に必要な割合の看護師がいます。ただし、24時間の常駐義務はないため、近隣の医療機関と連携をして夜間・緊急の対応をします。
老人ホームでの日常的な健康管理は、医師の指導の下、看護師が以下のことを行います。
- 服薬管理
- バイタルチェック(日常の健康管理)
- 看護師による医療ケア
老人ホームの医療体制は施設によって設備や規模にも大きな差がありますので、その施設での医療体制で支え切れなくなった場合は、病院などに移動をする必要が出てきます。
【参照:厚生労働省 介護老人福祉施設 参考資料】
2-9.介護ケア
グループホーム | 老人ホーム |
必要な介護サービスと生活支援。 | 必要な介護サービスと生活支援。 |
2-9-1.グループホームの介護ケア
要支援2・要介護1~5の段階別に、必要な介護ケアがされます。また日常生活上で必要な生活サポートは適宜、提供されています。
グループホームでは、普段の役割分担以外にも、本人が希望をすればスタッフと一緒に食材の買い出し・食事の準備・部屋の掃除などを通じた日常生活訓練を通じての自立をサポートしています。
また、地元のお祭り参加・掃除ボランティアなどの地域交流も積極的に行い、地域の人たちにグループホームの存在と認知症に対する理解を深めてもらう活動も行っています。
このような活動の結果、地域住民の一人ひとりが認知症の早期発見と、認知症の方の見守りを心がけるようになります。その結果、文字通りの、地域全体で高齢者を見守れる理想的な社会に近づきます。
施設スタッフには、認知症の理解を深めるための研修を定期実施し、より適切なケアができるように訓練をしています。
【参照:厚生労働省 認知症グループホームの強みを活かして】
2-9-2.老人ホームの介護ケア
老人ホームでは介護サービスと生活支援サポート以外にも、食事・清掃などの施設サービスが含まれるため、グループホームのように入居者が家事に相当することを行う必要はありません。
公営・民営共に、施設に余裕がある場合は、認知症の方専用フロアを持つ施設がありますが、通常は一般高齢者と認知症の方は1つのグループの中で必要なケアがされます。認知症の専門施設ではないため、スタッフには認知症に対する基礎知識はありますが、専門知識をつけられるほどの研修があるかは、施設の運営母体の考え方によります。
2-10.運営母体
グループホーム | 老人ホーム |
自治体の指定を受けた地域の民間事業。 運営監督は自治体が主体。 | 民間企業、社会福祉法人、医療法人、NPO法人。各施設が独自に運営。 |
2-10-1.グループホームの運営母体
グループホームは、自治体の指定を受けた地域の民間企業が運営をし、指導・監督は自治体が行います。地域包括ケアシステムを支えるために創設された施設であり、地域と地域医療・地域施設・地域サービスとの連携をして、地元に暮らす高齢者が安心して暮らせるための福祉施設の運営と福祉社会の実現が目的です。
2-10-2.老人ホームの運営母体
公営の老人ホームは、主に社会福祉法人・地方自治体・地方公共団体などの公共性の高い団体が運営をします。施設の存在理由が社会福祉であることから、営利追求しないことが前提です。
民営の老人ホームは、主に民間企業が事業として運営をしています。大企業の参入なども目立ち、独自の企画で様々な高齢者ニーズにこたえるホームを設立しています。事業であることから営利を追求しますが、代わりに、公的老人ホームにはないサービスを提供しています。
3.グループホームと老人ホームかを迷った時の選び方3つ
1本章ではチャートを使って、グループホームか老人ホームかを迷ったときに、より良い選択するための選び方を3つにまとめました。
3-1.家庭ごとの介護の方向性で選ぶ
入居先を、家庭ごとの介護の方向性から選びます。介護には各家庭の事情ごとに「できること」「できないこと」があり、その時の事情に合わせて「できること」から優先して選ぶのが正解です。
以下のチャート診断を使ってご自身の家の状況に当てはまるほうから選択します。選択分岐となる①~③の質問の理由を解説します。
3-1-1. 質問①現在、認知症による徘徊がありますか?
認知症の症状の一つである「徘徊」があると、家族だけでの見守りと介護が難しい上に、認知症の方の生命の危険度が大幅にアップします。そのため徘徊がある場合は、専門の見守りがある施設に入居させるほうが安全です。
徘徊は、目的もなくフラフラ歩き回ることです。その症状の間、本人には時間・距離・周囲との関係性などの記憶と感覚が薄くなっているため、体力の限りどんどんどこかに行ってしまいます。
家族が気が付いて探そうと思っても、家を出ている本人が目的を持って出ているわけではないので、探すほうはどこにいるのかが全く想定できず、探し当てるのに非常に苦労します。
特に、75歳前までの前期高齢者の場合、まだ足腰も丈夫で体力があるため、子供世代がびっくりするような遠方まで徒歩でたどり着くことがあります。また、徘徊する方は車道に飛び出すこともあり、交通事故や陥落事故に遭う確率も高まり、非常に危険です。
警察庁の発表によれば、認知症を原因とする行方不明者は、行方不明者全体の13.9%です。徘徊老人の捜索願は年間1万人を超えており、2010年から10年連続で上昇を続けています。
行方不明者となって1日以内に見つからない場合は、1日経過するごとに死亡率が37%も上昇するため、現時点で徘徊症状があるケースでは、一旦、24時間365日の見守りをしてもらえる施設へと移動し、認知症者の安全の確保をすると同時に、家族メンバー全員の肉体的・精神的な安全を優先しましょう。
【参照:警察庁 令和元年中における行方不明者の状況】
【参照:鈴木隆雄 桜美林大学老年学総合研究所 認知症高齢者の徘徊・行方不明・死亡に関する研究】
3-1-2. 質問②認知症の症状が回復したら在宅介護を望みますか?
認知症の症状が改善した後に、自宅での介護をできるかどうかで決めます。気持ちの上で在宅で受け入れたくても、現実の環境が
- 手のかかる小さな子供がいる
- 激務や長期の出張などが多く介護ができない
- ほかにも面倒をみるべき病気や高齢の家族がいる
- 受験を控えている子供がいる
- 介護を主にできる家族メンバーがいない
など、認知症になった方以外の家族メンバーの状況と環境を前提にして、総合的に考えます。
短いサイクルで生活環境が変化することは認知症の悪化につながります。認知症の方とその家族全員にとって最も良い選択が「在宅介護」であるかどうかがポイントになり、在宅での介護が難しい場合は、看取りまで対応ができる近隣施設へ入居をしながら、頻繁に家族として会いに行くほうが、認知症による脳機能の維持には良いケースもあります。
3-1-3. 質問③認知症以外に定期治療が必要な持病がありますか?
持病の有無で判断をします。グループホームの場合、看護師の配置義務がないため施設内でできる医療行為に制限がかかります。そのため、通院や往診での対応が難しいほど医療依存度が高まってきた場合、グループホームでは退去をお願いされます。
その他の公営・民営ホームでも、医療体制の充実度合いは施設によって大きな違いがあり、多くの場合、持病が悪化して投薬治療での対処が難しくなった場合は、病院施設への移動か、より医療体制の整った施設への移動を提案されます。
認知症がある状態で、住み慣れた施設を移動することは、認知機能に大きな影響を及ぼす可能性があります。持病を持つ場合は、選択できる範囲の中で最も医療体制の良いところに入居しましょう。
3-2.地域包括支援センターで相談してから選ぶ
地域包括支援センターは、介護に関する総合窓口です。グループホームと老人ホームを比較して情報を集めても、結局、どれが自分の家には一番良いのかがわからなくなってしまった場合は、地域包括支援センターの相談窓口で無料相談を受けてから選んでみましょう。
また、家族間で介護方針などに違いが生じ、結論に達しない状態の時にも、同じく地域包括支援センターの窓口を利用しましょう。地域包括支援センターには、介護のプロフェッショナルである
・社会福祉士
高齢者など福祉サービスを必要としている人の相談に応じ、アドバイスや援助をする専門職
・保健師または看護師
健康に関した手助けをする専門職
・主任ケアマネジャー
ケアマネジャーとして一定のキャリアと研修を積んだ、指導的立場を担う専門職
などの資格を持つ職員が、その専門性を生かしたプロのアドバイスをしてくれます。高齢者本人やその家族への相談対応もしており、今、目の前に迫った問題ではないケースでも相談に乗ってくれます。
プロフェッショナル集団ですので、相談者のおかれている状況や、入居予定者の状態などを総合的に判断したアドバイスが受けられます。
【参照:厚生労働省 地域包括支援センターの手引き】
3-3.紹介業者に探してもらった中から選ぶ
紹介業者に適切な施設をピックアップしてもらい、その中から選んでいくというスタイルもあります。前項で地域包括支援センターは介護情報の宝庫であることはお伝えしましたが、施設に関しては管轄地域の情報に特化しているため、管轄地区以外の施設情報に関しては手薄なことがあります。
また、地域包括支援センターに登録するケアマネジャーの本来の仕事は、在宅介護のサポートをすることがメインのため、自分が過去に足を運んだことのある施設のことしかわからないケースなどもあります。
介護のプロだからといって全ての施設の情報を網羅的に知っているわけではなく、情報として持っている施設の数が少ないと、結果的に、選択肢が少なくなります。
紹介業者の場合は、照会をするプロフェッショナルのため、地元地域を含めた全国区での施設情報を網羅的にデータで持っており、施設に関する情報量という意味では最も強いといえます。また、民間業者であるため、あまり杓子定規に考えず、申し込み相談者の希望に沿った施設を上手に見つけることもできます。例えば、
- 親の地元の認知症受け入れをする施設
- 自分たち家族が住んでいる地域で認知症受け入れをする施設
- 親と子供世代の家の中間にある施設
- 入居一時金〇万円まで
- 月額予算は〇万円まで
- できれば医療設備が良く、大きな病院の近くにある施設
など、地域や施設の持つくくりのない探し方にも対応してくれます。さらに、これらの情報をある程度精査したうえで候補を出してくれますので、自分で情報検索などをする時間と手間が省ける上に、情報整理のプロの仕分けた施設の中から、選ぶことができます。
照会業者は営利目的団体のため、仲介料が発生しますが、基本は、照会提携をしていえる施設から報酬が発生し、個人からは徴収しない傾向にあります。これらの紹介事業者には届け出が必要です。
【参照:高住連 紹介事業者届出公表制度】
4.ホーム選びに大切な4つのこと
本章では、ホーム選びに大切な4つのことをまとめました。多くの候補の中から候補を絞って、最終選考までに選び出すときの参考にしてください。
4-1.必ず見学とお泊り体験をする
いくつか候補が決まったら、必ず、個別に入居者本人と家族で見学をし、できればお泊り体験をしましょう。多くの施設では、見学もお泊り体験もできるようになっています。
施設に入居をして快適な生活が送れるかどうかは、結局のところ、入居者本人と施設との相性です。学校選びなどと同じで、施設の雰囲気などになじめない、相性が悪いなどの場合は、本人にとって居心地の悪い場所になります。
まずは見学をし、もう少し知りたいと思ったところには、お泊り体験を申し込みましょう。お泊り体験は1泊~1週間程度まであり、お泊り体験利用料金は一泊4,000~15,000円と施設によって大きく幅があります。
予算と時間的な都合が合えば、理想は1週間、短くても2泊3日くらいの体験がおすすめです。このくらいの時間を費やせば、その施設での
・一日の生活の流れ
起床~レクリエーション~自由時間~就寝までの1日の流れがわかる。
・介護サービスの質
介護スタッフの実際の介護現場を見て、どのような対応をしているかを垣間見ることができる。
スタッフと入居者の親しさや、信頼関係なども垣間見られる
・食事の味付けの好み
美味しい食事か、毎日食べても飽きないか、好みの味付けか。
ごはんの硬さ、味噌汁の味の濃さなど。
・入居者の雰囲気
みんなが明るく幸せそうか。いじわるな人たちがいないか。
・共有スペースの居心地の良さ
みんなが集まる場所が、良い雰囲気で使われているか。
誰かが占拠したり、使いづらい雰囲気ではないか。
などを体験できるところです。短時間の見学や説明を聞いただけでは分からない、そこの場所での実生活を体感できるので、思っていたイメージと違ったらほかを探せばよいし、気に入ったら入居候補に残しておくことができます。
【参考:体験宿泊 | 介護付有料老人ホーム グランガーデン鹿児島】
4-2.疑問に思ったことは何でも聞く
見学やお泊りに行ったときに、気になることがあれば、何でも聞くようにします。これから入居する施設ですので、知らないことのほうが多いのは当然です。知らないことをそのままにしてしまった場合、入居後にもっとも不安を感じるのは入居者本人です。
質問に対する説明をしてもらう際には、できればホーム長(施設長)にも同席してもらい、直接、お話を聞きましょう。
ホーム長の介護に関する考え方は、そのまま施設の雰囲気となってあらわれる傾向があるため、フワッとした言葉にならない疑問や不安も、ホーム長に直接確認すると、最も的確な回答が得られます。ホーム長は、施設全体の責任者として
- 営業活動
- 収支管理
- 職員の採用や育成
- 安全管理
などを管理していますので、ホームの状態を把握した上でスタッフを指導・指揮しています。こちらの質問に対し、的確に、誠実に答えてくれるかを通じて、そこで働くスタッフの人柄や仕事場への愛着が伝わってきます。
ホーム長からの回答をもとにして、その管理能力の高さやスタッフとの信頼関係が築けているかなども、同時に見ておきたいポイントです。これは別の機会に、ホーム長にした同じ質問を介護スタッフにしてみて、その答えがホーム長と類似した内容であれば、ホーム長の指導がよく浸透していることになります。
質問をするためには、その施設のことをある程度分かっている必要がありますので、予習として施設のパンフレットや重要事項説明書を取り寄せ、目を通しておくほうが良いでしょう。
4-3.親のお金で賄えるところから探す
介護の費用は、原則、親のお金から充当します。介護自体は子世代がすることが多いのですが、それはあくまで親の自立をサポートするためにしていることですので、そこにかかる費用には親のお金を使います。
年金・預貯金の額などをもとに、その金額の範囲内でまかなえる施設を探していきます。年金と親の預貯金をまとめても、大した金額にならない場合は、公的施設の入居を選択し、負担軽減措置を適用します。
本記事の2章3で解説をしましたが、例えば、親の世帯が年金収入だけで、所得が一定水準よりも低く、住民税の課税がされない非課税世帯(低所得)であれば、介護サービスは1割負担になります。また、住居費と食費負担もその他の助成金や負担軽減措置を適用しながら、介護の費用を低く抑えることができます。
親の面倒を見ている子世代は、年齢的に定年や早期退職が控えている年代でもありますので、現在の経済状態がずっと続くわけではありません。無理は経済支援をすると、自分たちの老後生活に影を落とすことにもなりかねません。負担をなるべく減らし「親の介護は原則親のお金でする」というルールを徹底してください。
4-4.重要事項説明書で比較をする
パンフレットは写真付きで施設のイメージを中心に訴求をしてきますが、実際の施設の詳細は重要事項説明書にありますので、比較をする際には重要事項説明書で比較検討をします。
重要事項説明書は、施設の詳細説明が載っている説明書です。例えば
・施設の概要
住宅の施工・設備など
・職員の配置状況
看護師の有無・介護スタッフの人数・その他スタッフの人数
・サービス内容全般
認知症などの病気が重たくなってもどこまで居住できるのか。
住宅施工会社と介護サービス等の会社が違う場合、協力体制がどうなっているか
事業者の変更があった場合、その施設はどうなるのか
・介護サービスをしている業者
実際に介護をするスタッフが所属するサービス事業者
・生活支援サービスをしている業者
介護サービスに含まれない生活支援をするスタッフが所属するサービス事業者
・月額利用料に含まれているサービス内容
サービスの種類と回数(上限)
・サービスの利用料金
月額利用料と一時金など
・生活ルール
共用部分の説明。
外出・外泊・帰宅・家族の訪問などのルール
・苦情対応
施設内での苦情はどこに持っていけばいいのか?
事故や自然災害発生時の対応などはどうなっているのか
などの、施設選びに欠かせない情報が細かくまとめられています。
重要事項説明書で特に注目すべきところは、客観的な判断ができる数字の部分です。候補となる施設がある場合は、数字を並べて比べると、より施設の実態が浮彫りになってきます。特に、民営老人ホームの場合は営利目的で運営をしていますから、以下の2点はとても重要です。
・入居率
平均的な民営ホームの場合、損益分岐点は開業2年で入居率80%を下回ると赤字と言われます。つまり 開業から2年経過した時点で施設の人数が、定員の8割を切っていたら、その施設には人が離れていく何 らかの理由があることになります。この数字が低い理由は、質疑応答で聞いても問題ありません。
【参照:専修大学商学部 老人ホームの経営と財務分析】
・退去者の次の行き先
退去後の行き先が「自宅」なのか「他の施設」、または「死亡」なのかをチェックします。特に「他の 施設」が多い場合は、その理由も聞いてみましょう。
公営・民営問わず、重要事項説明書は必ずありますので、パンフレットなどに入っていなかった場合は取り寄せましょう。都道府県によっては、民営老人ホームの重要事項説明書の一覧表をホームページで公開しているところもあります。検索方法は「埼玉県 老人ホーム 重要事項説明書」と入れると、自治体運営のサイトが表示されます。
検索しても出てこない場合は、地域包括支援センターで重要事項説明書の閲覧もできます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。グループホームと老人ホームの違いを以下のようにまとめました。
- グループホームと老人ホームの違い
- グループホームと老人ホームの違い 主たる10サービス比較
- グループホームと老人ホームかを迷った時の選び方3つ
- ホーム選びに大切な4つのこと
基本的に、どちらも認知症の方に対する受け入れはあることと、介護サービスには介護保険が使えることはご理解いただけたと思います。
グループホームという認知症高齢者のための専門施設には医療体制が完備されていないため、現時点で持病のある場合は、将来のことを視野にいれた施設選びが必要です。それ以外の場合は、見学とお泊り体験などを通して、家族と入居者本人も納得をした施設から、最適なところを選ぶことになります。
グループホームと老人ホーム、どちらを選ぶかの正解はないのですが、入居者と家族にとってのメリットを重視し、認知症の方の判断力がある状態であれば、本人の意志も尊重しつつ、全員が幸せになれるホームに入居できることをお祈りしております。
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