
病気やケガがきっかけとなり、長期間の静養から寝たきりの状態になってしまうことが多い高齢者(老人)。
家族として支えていくためには、介護の負担が発生します。
寝たきりの高齢者を介護する場合、「家族の一員としてどのように接すればよいか」と迷う方は多くいらっしゃるでしょう。
介護の方法として、
- 自宅で家族が担当する
- 何らかの介護サービスを利用する
といういくつかの選択肢があります。
今回は、高齢者の介護を行う際のポイントを踏まえて、介護サービスを含めた利用について紹介します。
合わせて、寝たきりを防ぐために取り組むべきポイントも解説します。
1. 寝たきりの状態で起こる廃用症候群とは?
何らかの原因で、長期間寝たきりの状態が続くと、さまざまな症状が引き起こされます。
これを「廃用症候群(生活不活発病)」と呼びます。
寝たきりの状態で身体を動かす機会が減り、精神状態にも悪影響を及ぼすのです。
寝たきりの状態が長く続く場合、身体を動かせないため各部が衰え続け、運動への意欲を失うという悪循環に陥るリスクが高まってしまいます。
廃用症候群には、以下のような症状があります。
・循環、呼吸器障害
・自律神経、精神障害
1−1. 運動器症候群(ロコモティブシンドローム)
身体を長期間動かさないでいると筋力が衰える「筋萎縮」や、関節が炎症し動かしにくくなる「関節拘縮」などの症状が現れます。
また、加齢によって骨量が減っていくため、「骨萎縮」と呼ばれる骨が細くもろい状態になります。
寝たきりの状態では食欲もわかず、きちんと栄養補給ができずに運動器の障害を悪化させてしまうのです。
出典:日本整形外科学会 新概念「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)
1−2. 循環・呼吸器障害
心機能の低下により、全身へ血液を十分に送り出せなくなり、血栓ができてしまう「血栓塞栓症」などのリスクが高まります。
高齢になると口の中の環境を清潔に保ちにくくなり、肺炎の原因となる雑菌が繁殖。
寝たきりの状態が続くと咳反射が弱まることで嚥下機能が低下し、食べ物が器官に入ってしまう誤嚥が起こりやすくなります。
この時に細菌が肺の中で繁殖することにより、「誤嚥性肺炎」を発症してしまう恐れがあるのです。
出典:整形外科おがたクリニック 廃用症候群-寝たきり予防のためにできること
1−3. 自律神経・精神障害
寝たきり状態が続くと身体を思うように動かせず、ストレスを感じてうつ状態を引き起こす場合があります。
気持ちが落ち込みがちになり、リハビリや運動、食事への前向きな気持ちが減少する原因になります。
また、周囲の状況を把握できなくなり、幻覚などを見てしまう「せん妄」や、時間や場所を把握できなくなる「見当識障害」などの症状が現れるケースがあります。
いずれの症状も、寝たきりの状態を悪化させ、回復への道筋を遠ざけてしまうものといえるでしょう。
2. 寝たきりの状態を介護する際のポイント
寝たきりの状態になった高齢者を介護する場合、常に注意を払いながら対応せねばなりません。
その過程で不安やストレスを感じる方もいるでしょう。
ここでは、寝たきりの高齢者への介護を行うための5つのポイントを紹介します。
2. 食事のサポートを行う
3. 排泄のサポートを行う
4. 身体を清潔に保つ
5. 役割分担を決めて負担を分散させる
2−1. 床ずれの予防を心がける
寝たきりの状態になると、筋力の低下などから自発的に寝返りが打てず、床ずれを起こす危険性があります。床ずれは、ベッドや布団の上で身体の一点が圧迫されたり、ずれたりすることで起こります。
床ずれになった部分は血流が悪くなり、皮膚障害を起こしてしまうのです。
床ずれを防ぐには、2〜3時間に1回程度の割合で体位や姿勢を変えるのがポイントとなります。
身体の同じ部分への圧迫を防ぐことで、床ずれへの対処が可能です。
また、身体にあった寝具を選ぶ、介護用のベッドを利用するなどの方法も効果的といえます。
2−2. 食事のサポートを行う
寝たきりの高齢者に対しては、食事のサポートもしっかりと行いましょう。
栄養バランスの取れた食事を意識して提供します。
また、食べる際にもサポートを行うことで、高齢者のペースで食べやすくなり、誤嚥などのリスクを下げられます。
食事のサポートをする際には、高齢者の隣に座って目線が合うようにしましょう。
そうすることで、食事の際に顎が上がりすぎず、誤嚥を起こす可能性を下げられます。
スプーンを使って食事を口に運ぶ際には、一度に飲み込める適量を心がけましょう。
食事のペースは高齢者側に合わせることが大切です。
決してせかすことなく、きちんと飲み込めたのを確認してから次の食事を口に運ぶようにしましょう。
食事の後は、歯磨きや水でゆすぐなどしてきちんと口の中を清掃しましょう。
口の中に食べかすが残っていると、虫歯や歯周病だけでなく誤嚥性肺炎の原因になる恐れがあるためです。
2−3. 排泄のサポートを行う
寝たきりの状態では身体を起してトイレまで向かうことが困難であるため、ポータブルトイレやおむつを利用します。
排泄の際には身体を抱えるなどの必要があり、人によってはかなりの重労働です。
そして、排泄に失敗すると介護を受ける本人も傷ついてしまいます。
排泄のサポートはデリケートな問題であるため、気を使いながら行いましょう。
排泄のトラブルが起きても叱責はせず、成功した場合には一緒に喜ぶなど、共に成長できる流れを構築することが大切です。
また、食後や就寝前には必ず排泄を済ませるようにするなど、1日のスケジュールとして組み込むことで、深夜帯などの排泄トラブルを防ぎやすくなります。
2−4. 身体を清潔に保つ
寝たきりの状態では入浴が難しく、家族の手で身体を拭くなどのサポートが必要です。
「あまり動いていないから大丈夫」と不衛生な状態にしておくと、細菌感染の原因になりかねません。
お湯をしぼったタオルなどを使い、身体を拭くことを清拭といい、定期的に行いましょう。
清拭は日中の温かい時間帯か、部屋の温度を24℃ほどに保った状態で行います。
一度に全身を拭こうとすると時間がかかり、身体が冷えてしまうため、部分的に行うのがポイントです。
寝たきりの状態で洗髪を行うのは難しいですが、市販のドライシャンプーを使えば蒸しタオルを使うだけで頭を洗うことができます。
また、洗面器に40℃ほどのお湯を張り、手や足をつけて温めるのも効果的です。
リラックス効果も得られるでしょう。
身体を清潔に保つだけでなく、血行の促進により床ずれの予防にもつながります。
2−5. 役割分担を決めて負担を分散させる
介護は長期間続くため、人によっては介護疲れを起こす場合があります。
食事や介護のサポートに加え、寝不足による体力的な負担が大きくなるためです。
また、精神的にもストレスを溜めてしまい、体調を崩しかねません。
そこで、家庭内で介護を行う場合は、家族で役割分担を決めておくのがポイントです。
両親の介護の場合は、兄弟や姉妹に協力を要請する方法があります。
誰がメインで介護を担当するかを決めて、他のメンバーで穴を埋められるようにしましょう。
週末や午前中だけなど、限られた時間だけでも介護を担当してもらえれば、メインの介護者の負担を減らすことが可能です。
3. 介護サービスの利用で家族の負担を減らす2つの選択肢
家庭内の介護だけでは寝たきりの老人をサポートするのに限界を感じる方もいらっしゃるでしょう。その場合は、外部の介護サービスの利用を考えてみてください。
介護サービスには訪問介護などの「居宅サービス」や、施設に入居してもらう「施設サービス」などがあります。
いずれも費用が発生するため、介護対象となる人物の年金や貯蓄額がどれくらいあるか、それで介護費用を賄えるのかを確認しておきましょう。
家族で介護費用を負担することになっても、プロの手を借りることがよい結果につながるケースもあります。
3−1.居宅サービスを利用する
自宅で寝たきりの高齢者の介護サービスを受ける場合、居宅サービスと呼ばれます。
居宅サービスには以下のサービスが含まれています。
訪問介護(ホームヘルプサービス) | 居宅サービスでは最も多く利用されており、訪問介護員がサービスを担当します。
食事や排泄、入浴などをサポートする「身体介護」と清掃や洗濯、買い物などを担当する「生活援助」があります。 |
訪問入浴介護 | 看護師や介護職員が移動入浴車で来訪し、入浴介助を行います。寝たきりの状態でも利用可能です。 |
訪問看護 | 看護師や保健師が訪問し、注射や点滴などの医療的な処置を受けることが可能です。医師が必要と判断した要介護者が利用できます。 |
訪問リハビリテーション | 医師の指示を受けた理学療法士や作業療法士が訪問してリハビリを行います。 |
介護のプロや医療従事者が家庭を訪問し、各種サービスや医療的な処置を受けられます。
寝たきりで外出できない高齢者の場合、自宅にいながらサポートを受けられるため負担が少ないといえます。
また、家族の介護負担も減らせるため、居宅サービスの利用を検討してみるのもよいでしょう。
3−1−1. 安心感を得られる
プロの介護サービスを受けることで、家族が行うよりも適切で質の高い処置を施してもらえます。
在宅で介護を依頼する場合、スタッフが来ている間は少し目を離せるため、気分転換ができます。
また、目の前で介護をしてもらえるため、安心しながら見守ることができるでしょう。
施設でのサービスを利用する場合は、介護のすべてをスタッフに任せることになるため、家族の負担を大きく減らせます。施設によっては24時間体制の見守りがあったり、医療的な処置もできるため、万が一の際も安心です。
排泄や入浴の介護となるとデリケートな問題になりますが、親しい間柄の家族よりも専門のスタッフに任せることで寝たきりの高齢者も気を使わずに済むかもしれません。
3−1−2. 適切なリハビリを受けられる
プロの介護スタッフに任せることで、適切なリハビリを受けられるようになります。
寝たきりの場合は身体が固まってしまいがちですが、適度にマッサージを施したり離床を促したりすることで、適切な筋力を維持しやすくなるのです。
リハビリは医師の指示をもとに、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などが担当します。
在宅の場合は住み慣れた空間でライフスタイルに合わせたリハビリを受けられる点がメリットです。
3−2.施設サービスを利用する
在宅での介護に限界を感じる場合は、外部の施設を利用する施設サービスの利用を検討してみるとよいでしょう。
施設サービスは居宅サービスとは異なり、施設に入居して専門スタッフによる介護を受けられるようになります。老人ホームなどの施設が該当し、入居の条件を満たせば利用可能です。
公的な施設一覧 | |
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設) | 社会福祉法人や地方自治体などの公的機関が運営する公的な施設です。 費用を比較的安価に抑えられるメリットがあります。 運営要介護3以上で入居できます。 |
介護老人保健施設 | 医療ケアやリハビリが必要な高齢者向けの公的な入居施設です。 食事や入浴のサポートを受けられ、医師や専門スタッフが常駐しています。 要介護1以上で入居できます。 |
介護療養型医療施設 | 医療的な処置とリハビリが必要な高齢者向けの公的な施設です。 医療法人が運営し、看護師が多く配置されています。 痰の吸引などの医療的処置も可能です。 |
ケアハウス | 「軽費老人ホームC型(介護型)」に入居可能です。 食事や入浴のサポートが受けられます。自立や要支援で入居できます。 |
民間の施設一覧 | |
介護付き有料老人ホーム | 民間で運営される有料の老人ホームです。 入居の費用は割高になりますが、設備が充実しており 介護や食事などのサポートを受けられます。 スタッフが24時間常駐しており安心感があります。 |
3−2−1. 常に見守りのある安心感がある
施設サービスを利用することで、介護や医療の知識を持ったスタッフによる見守りを受けられるようになります。
在宅で介護では対応できないような問題が発生したとしても、施設に入居していれば迅速に適切な処置を受けられる可能性が高まるでしょう。
寝たきりの高齢者にとっても家族にとっても、安心感を持って日常を過ごせることには大きなメリットがあります。
3−2−2. 施設なら同年代から刺激を受けられる
施設サービスの利用で施設に入居する場合、寝たきりの状態とはいえ年齢の近い入居者と共に過ごすことになります。
その中でお互いに刺激を与えあいながら、リハビリについて前向きに考えられるようになるかもしれません。
脳への刺激にもなるため、認知症の予防への効果も期待できます。
家族以外の人と交流を持つことで、自宅では得られない多くの刺激を感じられるのです。
このように、介護のプロの力を借りることは、寝たきりの高齢者だけでなく支える家族にとっても多くのメリットがあります。
不慣れな介護の毎日で身も心も疲れ切ってしまうよりも、プロの適切な介護サービスを利用したほうが、お互いにとってよりよい選択になる場合が多くあるのです。
4. 寝たきりを防ぐために取り組むべきポイント
寝たきりになってしまうと、身体を動かせない苛立ちを感じ、ストレスからうつ病などを発症してしまう恐れがあります。
介護の問題が原因で家族間の関係が悪化すれば、共に歩んできた重みが失われかねません。
そこで、寝たきりを防ぐために普段から取り組める4つのポイントをまとめました。
将来的に寝たきりの生活にならないように、普段から心がけることも大切です。
2. 食事の栄養バランスに気をつける
3. 症状が軽い場合は本人にゆだねる
4. 適度な刺激を得る
4−1. 運動の機会を増やす
寝たきりの予防には、普段から意識して運動を心がけることが大切です。
足腰の筋力が弱らないように、できる範囲で散歩をしたり、軽くストレッチをするなどしましょう。
足腰が弱ってしまうと、ふとしたことで転倒してしまい、その時の怪我や骨折が原因で寝たきりになってしまう場合があるからです。
すでに寝たきり状態にあり、あまり動けないという場合は、ベッドの上を使って脚や腕の体操ができます。リハビリを兼ねて取り組むようにするとよいでしょう。
4−2. 食事の栄養バランスに気をつける
加齢による食欲不振から栄養不足に陥った場合、寝たきりのリスクが高まってしまいます。
栄養不足だと免疫力が低下し、感染症にかかってしまう危険性も上がります。
そこで、栄養バランスを意識した食事を摂ることで、身体を健康な状態に保つようにしましょう。
あまり食べすぎる場合は生活習慣病や高血圧になりかねないため、塩分を控えることを意識してください。
4−3. 症状が軽い場合は本人にゆだねる
寝たきりの状態によりますが、症状が軽い場合は家族や介護スタッフだけに任せるのではなく、本人にもリハビリに取り組んでもらうよう促しましょう。
ベッドから起き上がったり、服を着替えたりする際、無理のない範囲で寝たきりの高齢者に自発的に行ってもらうのです。
本人がリハビリに対して前向きな意識を持てば、周囲から介護を受ける際もプラスに働く効果が期待できます。
ただし、無理をしてリハビリをしてもらう必要はなく、家族や介護スタッフがきちんと状態を把握し、できることを明確にしておくことが大切です。
4−4. 適度な刺激を得る
寝たきりの状態が続くと刺激が少なくなり、脳の機能低下が起こります。
身体を動かさないことと合わせて、認知症の可能性が高まるため、しっかりと栄養を取り、適度に運動をしてストレスをためないことを意識しましょう。
合わせて、手軽に脳への刺激を得ることも大切です。
寝たきりの状態でも手軽に操作できるスマホやタブレット端末を利用してもらうことを検討してみてもよいでしょう。
スマホがあれば、インターネットを使った調べものや、動画や電子書籍の閲覧など、暇な時間を減らすことができます。
高齢者でもストレスなく操作できる、「らくらくスマートフォン F-42A」などの機種がおすすめです。
まとめ
家族に対する介護の問題は突然訪れます。
家族や兄弟、姉妹、親戚間で普段から介護問題について話しておくとよいでしょう。
いざという時にスムーズに役割分ができる可能性が高まります。
家族だけで介護をする時間的・体力的な余裕がない場合は、介護サービスの利用を検討してみてください。在宅や施設への入居など、寝たきりの状態でより快適に過ごせるかを考えてみるよいでしょう。
平均寿命が延びたことで超高齢化社会となった日本では、寝たきりで過ごすことは自分にとっても介護をする家族にとっても幸せとはいえません。
寝たきりの状態からリハビリを経て、なるべく元の暮らしを取り戻せるように前向きに取り組むことが大切です。
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